ポーカーフェイスの二人は相思相愛で甘々で

4★

テスト期間。

湯田中蓮と田澤雪乃は、お互いの存在を必死で封印していた。

試験が終わるまでは――と。



昼休み。大学の中庭。

蝉の声が響く夏の空の下。

蓮は木陰で立ち尽くしていた。教科書を片手に、明らかに落ち着きがない。

そこに、雪乃がゆっくり歩いてくる。

「蓮。」

「雪乃。」

名前を呼び合っただけで、息が詰まりそうになる。

「……やっと会えた。」

「うん……。」

ふたりとも無表情。だけど、目だけがひどく熱を帯びている。

一歩、また一歩と距離が縮まり――とうとう雪乃が蓮の胸元を掴んだ。

「蓮……触りたい。」

「おれも。」

「でも、ここ大学。」

「……知ってる。」

言いながら、蓮は雪乃の腰にそっと手をまわす。雪乃の背筋がびくりと震える。

「だめ……みんな見てる。」

「でも……雪乃の顔、我慢できない。」

雪乃は無表情を保ちながら、しかし耳まで赤くなっている。

「もう、テスト期間つらすぎた……。」

「雪乃の声、ずっと聞きたかった。」

「わたしも……蓮の匂い、忘れそうだった。」

蓮が雪乃の髪をそっとかき上げる。雪乃は蓮の手のひらに頬を寄せた。

「雪乃……部屋、行く?」

「行く。今すぐ行く。」

「授業……」

「出ない。」

「おれも。」

雪乃がきゅっと蓮のシャツを握りしめる。

「……蓮、今日、絶対離さない。」

「おれも、もう雪乃から離れない。」

二人は周りの視線も気にせず、ぎりぎりの距離で顔を寄せ合う。唇が触れそうになったその瞬間――

「おーい湯田中ー!次の講義、席とっとくぞー!」

友人の声に、二人はビクリと離れる。

雪乃は無表情のまま、蓮の耳元に囁いた。

「……早く、終わらせて。全部。」

「すぐ終わらせる。」

瞳に甘い炎を灯したまま、二人はまるで獲物を狙うような顔で教室へと戻って行った。

そして午後の講義が終わる頃には、誰もが知らないことになる。

ふたりは今夜、すべての理性を解き放つことを――


雪乃の部屋。

玄関を閉めた瞬間、空気が一変した。

蓮はすぐに雪乃を引き寄せ、背中に腕をまわす。雪乃は驚いたように一度瞬きするけれど、すぐに蓮の服をぎゅっと掴み返した。

「……蓮、早い。」

「ずっと我慢してた。」

「わたしも。」

「テスト中、何回も雪乃のこと考えた。」

「わたしも。……蓮の顔、声、匂い、全部。」

「匂いまで?」

「うん……蓮の匂い、落ち着くから。」

蓮は雪乃の髪に顔を埋め、深く息を吸い込む。

「……雪乃もいい匂い。甘くて、やばい。」

「やばいって、何が。」

「おれ、我慢できない。」

そのまま蓮は、雪乃を抱え上げる。雪乃が小さく息を呑む。

「ちょ、蓮……!重いでしょ……。」

「軽い。」

「嘘つき……。」

蓮は雪乃をベッドに下ろし、覆いかぶさるように顔を近づけた。

「雪乃……顔赤い。」

「……蓮が、近いから。」

「離れた方がいい?」

「……やだ。」

雪乃が蓮の頬にそっと触れる。無表情だけど、指先がかすかに震えている。

「蓮……好き。ずっと、ずっと好き。」

「おれも。雪乃だけしか、見えない。」

蓮はゆっくりと雪乃の唇を奪う。触れるだけのキスが、次第に深くなり、甘い水音が部屋に広がった。

「……んっ……蓮……」

「雪乃、声……すごく可愛い。」

「……やだ、恥ずかしい……。」

「おれにしか聞こえてないから、平気。」

蓮は雪乃の耳を甘く噛む。雪乃がびくりと震える。

「……やだ……そんなとこ、触らないで……。」

「もっと触りたい。」

「……変態。」

「雪乃専用の変態でいい。」

雪乃の瞳が潤んで、とろけたように蓮を見つめる。

「……蓮がさ、全部教えたんだよ。わたし、こんな風になるって知らなかったのに。」

「何を?」

「……触られたら気持ちよくなることとか、蓮に触りたいって思う気持ちとか……全部。」

蓮は一瞬黙ってから、雪乃の額にそっと口づけた。

「じゃあ、これからももっと教える。」

「……うん。」

「おれが触るところ全部、雪乃の好きなとこにしたい。」

「……じゃあ、触っていいよ……。」

雪乃は顔を赤らめながら、蓮のシャツをゆっくり外す。指先がもどかしくて、何度も布地を掴み損ねる。

「手、震えてる。」

「蓮が見てるから……。」

「見てたい。」

「……ばか。」

蓮が雪乃の手を取り、自分の胸元に当てる。

「ここ、触って。」

「……どきどきしてる。」

「雪乃がいるからだよ。」

「……わたしも、すごい速い。」

蓮は雪乃の手を胸から腰へと誘いながら、低く囁く。

「雪乃……今夜、おれだけのものになって。」

「……もう、ずっと蓮のものだよ。」

蓮の瞳がやさしく細められた。

「愛してる。誰にも見せたくない。」

「わたしも……蓮しか知らなくていい。蓮しかいらない。」

ふたりは再び、熱い口づけを交わす。

雪乃の無表情は、キスのたびに少しずつ崩れていく。頬が赤く、瞳が潤み、やわらかい吐息がこぼれた。

やっと会えたふたりの夜は、静かで甘く、でも熱く、限りなく濃密にふけていった。

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