ポーカーフェイスの二人は相思相愛で甘々で

5★

大学を出た瞬間、空が急に暗くなった。

「雪乃、早く……」

「うん……」

蓮と雪乃は、傘もなく走り出したけれど、ほどなくして土砂降りになった。



駅のアーケード下に駆け込む。

二人とも息を切らし、頭から水を滴らせていた。

雪乃は前髪から水滴を落としながら、無表情のまま蓮を見上げた。

「……びしょびしょ。」

「おれも。」

蓮が自分の髪をくしゃりと拭って雪乃を見ると、思わず息を呑んだ。

雪乃の白いブラウスが雨で肌に張りつき、うっすらとピンク色のブラが透けている。

「……っ……」

蓮は顔を背けたが、耳が赤くなっているのは隠せなかった。

「蓮?」

「……見えそう。……ていうか見えてる。」

「……何が。」

「……ブラ。」

雪乃が一瞬きょとんとしてから、頬を赤く染めた。無表情のまま、小さな声でぼそり。

「……見ちゃだめ?」

「だめじゃないけど、外だし。」

蓮は慌てて自分のシャツを脱ぎ、雪乃の肩にかけた。

「これ着て。」

「蓮のシャツ、あったかい。」

「……雪乃が冷えたら困る。」

「……蓮、顔赤い。」

「雪乃のせい。」

「……全部わたしのせいにする。」

「だって……雪乃、かわいすぎる。」

雪乃は少し俯き、シャツの端をきゅっと掴んだ。

「……ねえ、蓮。」

「ん?」

「一緒にお風呂、入ろう?」

蓮の目が見開かれた。息を飲む音すら聞こえそうだった。

「えっ……今?」

「うん。だって、寒いし。……それに……」

雪乃は無表情のまま、でも唇だけがかすかに震えた。

「……蓮とくっつきたい。」

蓮は数秒黙ったまま、雪乃をまっすぐ見つめる。

「……雪乃、今、自分がどれだけ可愛いこと言ってるか分かってる?」

「分かってる。……わざと言ってる。」

「……おれ、理性ないよ?」

「なくていい。」

雨音が遠くに響く中、二人の空気は一気に熱を帯びた。



雪乃の部屋の浴室。

浴槽から湯気がふわりと立ちのぼり、視界が少し白くけぶっていた。

湯田中蓮は、雪乃の背中のファスナーを震える指で下ろす。

「……っ……雪乃、背中、白い……。」

「見るな。」

「見ない方が無理。」

雪乃は髪を前に流し、無表情のまま小さく肩をすくめた。

「……蓮の目、いやらしい。」

「雪乃のせい。」

「またそれ。」

雪乃は振り返り、少し潤んだ瞳で蓮を見つめた。

「……蓮のそういうとこ、嫌いじゃないけど。」

「じゃあ好きって言って。」

「……好き。」

蓮が目を細め、ゆっくりと雪乃を抱きしめた。雪乃の肌はまだ少し冷たくて、蓮の体温を吸い寄せるようにくっついてくる。

湯気が熱をまとい、二人の肌にしっとりまとわりついた。



お湯の中。

雪乃は蓮の膝の上にちょこんと座る形になっていた。

「雪乃……狭くない?」

「狭い方がいい。」

「なんで。」

「蓮にくっつけるから。」

雪乃の声はいつもより小さく、吐息が少し震えている。

「……こうするとさ、蓮の心臓の音、すごく近い。」

「雪乃のも聞こえる。」

「聞かないで。」

「なんで。」

「……恥ずかしいから。」

「可愛いから、もっと聞きたい。」

「ばか。」

雪乃は無表情を崩さないまま、でも頬は真っ赤だ。

蓮はそっと雪乃の肩に唇を落とす。お湯で濡れた肌に、熱い吐息がかかるたび、雪乃が小さく身を震わせた。

「……ん……」

「声、出た。」

「……出てない。」

「出た。」

「……ばか。」

雪乃が蓮の胸を、弱い力でぺしぺし叩く。けれどすぐに、その手が蓮の首に回った。

「……蓮、もっと……」

「もっと、何?」

「……キスして。」

蓮はすぐに雪乃の唇を捕らえた。お湯の中で、二人の身体がぴたりと密着する。

唇を離すと、雪乃が細い声で囁く。

「……蓮に触れられてると、全部とろける。」

「雪乃も、おれをとろけさせてる。」

「……わたし、そんなこと、知らなかったのに。」

「おれが教えた。」

「知ってる。」

雪乃の指先が、そっと蓮の首筋を撫でる。

「……蓮が触ると、苦しいのに、もっと欲しくなる。」

「おれも。雪乃が欲しくて、胸が痛い。」

雪乃は顔を伏せるようにして、蓮の胸に頬を押し当てる。

「……離れたくない。」

「離れない。」

お湯が揺れ、小さく波紋を広げた。

雪乃がそっと顔を上げ、ぽつりと言う。

「……ねえ、蓮。」

「ん。」

「お風呂じゃ足りない。……ベッド行こ?」

蓮の瞳がすっと細まった。

「……行く。」

雪乃が無表情のまま、でも笑ったように見えた。

こうしてふたりは、濡れた肌を拭うこともそこそこに、また甘い夜の続きへと向かうのだった。
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