俺様な忠犬くんはご主人様にひたすら恋をする

10

――ん……。

重い。
頭が、鉛みたいに重たい。

飲みすぎた、かな……。

うっすらと目を開けると、見慣れない天井が広がっていた。

「……っ」

一瞬、心臓が跳ねる。
ここ、どこ? あれ、私……。

「おはよう」

声がした。
その声が、耳に触れた瞬間、全身がびくりと震えた。

藤堂。

ベッドの端に、彼がいた。
シャツのボタンを適当に留めて、髪も少し乱れていて、
けれどその瞳は、どこか落ち着いていて。

「昨日、途中で寝た」

さらりと告げられた言葉に、息が止まりそうになる。

――途中で、寝た?

あたまの奥が、じわじわと熱を帯びる。
記憶が、まだ霧がかったままだけど、それでも思い出してしまう。

あのキス。
腕を引かれて入った部屋。
ネクタイを外す音。
彼の手が、私のブラウスに触れた感触。

「……っ」

思わず、シーツをぎゅっと握った。

「なにか、された……とか、思ってないよな?」

藤堂が、少しだけ真剣な顔をした。

私は首を横に振った。
心は、もっとぐちゃぐちゃだったけれど。
でも、わかってる。彼が、無理に何かしたりする人じゃないことくらい。

「安心しろ、なにもしてない。……ってか、できなかった」

少しふてくされたように言いながら、彼は立ち上がって、コーヒーを淹れはじめた。

それだけの動作なのに、心が、ざわざわする。

なにしてるの。私。
佐久間さんとの温泉旅行の予定も決まったばかりなのに――
なのに、なんで、
なんで藤堂にこんなに心が引っ張られてるの?

顔を上げると、藤堂がカップを差し出してきた。

「……飲めそうか?」

私は黙って、うなずいた。

カップを両手で包むと、コーヒーの香りがふわりと鼻に届いて、
そのあたたかさに、胸の奥がじんわりと熱くなる。

(……ずるいよ、環)

名前を、心の中でだけ呼んだ。
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