俺様な忠犬くんはご主人様にひたすら恋をする

22

藤堂side

気がつくと、瑞希がいた。
あの頃と同じ部屋、同じソファ。
ただ違ったのは、彼女が笑っていたこと。

「ねえ、環。…今日も遅かったね」

振り向くと、瑞希がキッチンから顔を出していた。
パジャマ姿。髪はゆるく結ばれて、頬がほんのり赤い。

「ごめん、急な会議でさ。待った?」

「ううん、シェパードくんと一緒に寝そうになった」

「また、ぎゅっとしてたのか?」

「……うん」

笑ってる。
柔らかくて、あたたかくて、まるで時間が戻ったみたいだった。

手を伸ばす。
触れた指先が、彼女の頬に届いた。
すべすべで、ぬくもりがあって、確かに「そこに」いた。

「環」

「……何?」

「ずっと一緒にいようね」

瑞希が、そう言った。
目の前で、ちゃんと俺の目を見て。

「うん。俺も…ずっと一緒にいるよ」

そう答えた瞬間、ふっと光が揺れて、景色が滲んだ。
目の前にいたはずの瑞希が、すこしずつ、遠ざかっていく。

「瑞希…?」

手を伸ばす。
でも、届かない。

「たまき……」

彼女の声が風にのって、消えていった。

「瑞希!!」

藤堂は声をあげて目を覚ました。


夜の3時。
まだ深い静寂が部屋を包んでいる。
額には汗。
胸が、ドクドクと早鐘のように鳴っていた。

横を見る。
シェパードが、黙ってこっちを見ていた。

「……あいつの声、リアルだったな」

夢なのに、確かに肌の感触が残っていた。
あの言葉も——
「ずっと一緒にいようね」
——忘れられそうにない。

もう一度、目を閉じる。
今度は、夢じゃなく、本当にその隣に彼女がいる未来を願って。
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