俺様な忠犬くんはご主人様にひたすら恋をする

4

私は、藤堂を避けると決めた。
自分から終わらせておいて、今さら顔を合わせて気まずくなるなんて、ただの自己満足だ。

会わなければいい。話さなければいい。
今の私は、彼の過去じゃなくて、“自分の今”をちゃんと選びたい。

だから、そのための準備を、淡々と進めていた。

いつもより早く出社する。
藤堂が顔を出す時間帯を、部下にさりげなく聞いて、そこは打ち合わせを入れる。
資料を渡す必要があっても、他のメンバーに頼む。
必要な伝言も、チャットで済ませる。

徹底する。徹底して、“何もなかったふり”を通す。

誰も気づいていないと思っていた。
でも、ひとりだけ、じっと私を見ていた人がいた。

「……月岡さん、最近、やたら予定詰め込んでますよね」

佐久間さん。
落ち着いた声で、笑いながら言われた。

「ああ……ちょっと、プロジェクトが立て込んでて」

そう答えながら、目を合わせない。
彼のまなざしが、私の“言葉にしない何か”を探ろうとしてくるのがわかる。

優しい人。穏やかで、まっすぐで。
ちゃんと私のことを見てくれている人。

だからこそ、藤堂の影なんか、もう引きずりたくなかった。

次の金曜日、佐久間さんと食事の約束をしている。
ちゃんと向き合うつもりだった。

(もう、大丈夫。私は進んでる)

そう思っていた。

けれど――
廊下の角を曲がった、そのとき。

目の前に現れたのは、
絶対に会わないはずだった人間。

「……よう、月岡」

一瞬、息が止まった。

(ダメ。動揺しない)

胸の奥がざわつくのを、必死に押し込める。
平然を装って、会釈ひとつ。言葉も交わさず、そのまま歩き去る。

でも、背中に感じた視線は、
まるでドーベルマンみたいに、静かに、執拗に、追いかけてきた。
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