あなたに恋する保健室
「ちょっと考え事してて……」
「だろうな。ノックも聞こえない様子だったし」
 放課後の保健室。
 みんなは部活に行っている頃だろう。
 京ちゃんは生物研究会の顧問だったっけ。
「研究会は?」
「今日は休み。これから明日の授業でやる実験の準備」
 珍しく白衣を着ていたのはそのためか。
「私に手伝ってほしいって?」
 私は京ちゃんが言いたいことがなんとなく伝わってきた。
「優希こそ。何か話したげじゃねぇかよ」
「お互い様ってことで。いい?」
「おう」
 自分の不甲斐なさに落ち込んだ時、傍に大好きな人がいてくれるってこんなに頼もしくて、心が温かくなるんだ。
 地元を出て独りで悩んでいたのが当たり前だった私にとって、新しい感覚だった。
 私は保健室の札を『在室』から『不在』にして、ホワイトボードに『理科準備室』と書いて吊るした。
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