あなたに恋する保健室
「じゃ、カバーガラスとプレパラート四十枚ここに出して。割れないように気ィつけて」
「はーい」
 理科準備室にはたくさんの実験道具があった。
 この学校の理科準備室は私立ということもあってか、私が卒業した公立の学校より設備が整っているように見えた。
「わっ、割れそう」
「大抵男子が割るけどな」
「ちょっと!」
「へい、すんません〜」
 京ちゃんのからかい方がなんだか懐かしくて、眉間に力が入っていたのがやんわりと抜けていく。
「はい、並べたよ」
「さんきゅ。じゃ、ちょっと座ってて」
「うん」
 京ちゃんは何やら顕微鏡を覗いて別の作業をしていた。
 作業をジッと見るのも気まずいなと思い、あたりを見ると、壁にずらりと飾られた綺麗な蝶や昆虫の標本が視界に入った。
「なんか懐かしいね」
「それは保健室に行った時、俺も思ったよ」
 それもそうか。私がいつも来ないだけで、京ちゃんにとっては自分の仕事部屋みたいな場所だもんね。
 その言葉の後、わずかな沈黙。
 なんだか無言の時間が恥ずかしくなってきて、何か話しかけようとした時だった。
「で、どうしたんだ?」
 京ちゃんは私に優しく尋ねてきた。
「うっ……ぐ……」
 せっかくリラックスできたのに、急に身体が強ばってしまう。
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