あなたに恋する保健室
 それからというものの、私たちは無言で採点を続けていく。
 初めは気まずさを感じていたけど、次第にそれも気にならなくなっていった。
──ザッ、ザッ、ザッ
 勢いの良い単調なリズム。
 しばらく丸つけをしていくと答えも覚えてきて素早く採点できるようになっていく。
 無心でその作業を続けてくうちに、なぜだが病棟で働いていた頃のことを思い出してしまう。
(なんだか、急性期病棟のエンゼルケアみたい……かも)
 エンゼルケア。
 お亡くなりになった患者さんを綺麗にしてからご家族とご対面してもらうために、点滴ルートの抜去、清拭、着替え、化粧などを施すこと。
 これまで各々の人生を歩んできた彼らを、一通り決められた手順で慣れた手つきで整えていく。
 忙しない日々の中にある業務のひとつである逝去時のケアに、私は何も感じなくなっていたことがある。
 その過程にはたくさんの思いや歴史があるのに。
 そんな時間に似ている。 
「京ちゃん」
「何?」
 採点が一段落ついた頃。
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