あなたに恋する保健室
「私、悲しい思いを素直にさらけ出すご家族の前で、冷静すぎるくらいになってしまった自分がいたんだ。業務のひとつとして、慣れた手つきで死亡時のケアを行う。相手の感情を受け止めてはみるけれど、そこに温かさはないような。悲しみに触れるのが辛くて……」
 単元ごとに実施するという小テストの採点。
 選択式と記述式の問題があって、最後に『苦手な問題』という欄があった。
 きっと、そういうところだと思う。
 私が京ちゃんにまた惹かれていった理由。
「俺には詳しいことはわかんねぇけどさ」
 京ちゃんは手を止めて私をしっかり見つめて座り直した。
 私もつられて京ちゃんの方に体を向ける。
「俺、テストやったらひとりひとりにコメントするんだ。解答用紙にこんな感じで」
 見せてくれたのは京ちゃんが採点していた解答用紙。
 自由記載欄に書かれた各々の苦手な問題に対してコメントしている。そこに記載がない生徒には京ちゃんからの応援コメントや解答に対するコメントがあった。
「単純な小テストも、コメントがあれば見返す時に印象に残りやすいのかなって思ってさ。あと単純に、嬉しいじゃん? 何か書いてくれるの。それが俺なりの教師としての関わり方」
 個別性のある指導とでも言うのだろうか。
 看護もそういった思考が大切だと大学時代に学んだし、就職後も心がけていた。
 思うように実現できず悩んでいた頃もあったけど。
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