あなたに恋する保健室
「優希は患者やその家族が満足できるお別れになるように関われたと思うか?」
「……どうだろう」
 私なりにできることはやった。
 病状説明の時、余命について先生から説明されたご家族には特に力を入れて関わってきた。
 後悔してほしくなかったから。
 それが私にとって、大事な看護観だったのかもしれない。
 生と死が混在する特殊な現場で、私は常に命に真剣に向き合ってきた。頑張ってきたと思う。
 ふと、過去の自分に対してそう思うことができた。
 こんなこと初めてだった。いつも自分はまだまだだと思うばかりで、認めることはしなかったから。
「俺が四年目の時、授業担当していたクラスの生徒が病気で入院してさ。今は元気だけど」
「そうだったの?」
 知らない話だった。
「担任でもないし授業でしか会わないのに、俺めちゃくちゃお見舞い行ったんだ」
「京ちゃんらしい」
 弱っている人のもとに行けるのがすごい。私は、状態によってはどう声をかけるべきか迷うから避けてしまいたくなる時もあったのに。
「病院の人でも家族でも担任でもない、何でもない俺にならって、こっそり自分の思いを話してくれたこともあったんだ」
 きっとその子は、語る場所が欲しかったんだ。
 専門職や家族だと迷惑をかけるし面倒になると思って話さない人も多い。
 京ちゃんは、その子にとって大切な話し相手になっていたんだ。
「と、まぁ俺の話はおしまい。きっと優希はどんな相手にも誠実な関わりをしていたと思う。だから、過去の自分を見つめられた」
「うん……」
 ふと、ぽろりと涙が頬を伝う。
「昔からそうだった。努力家で素直で優しくて。みんなから頼られる存在。今も生徒から慕われているし。それに保健室と教師との連携も密に行ってくれているからみんな助かってる」
 京ちゃんはそう言いながら私の頭を優しくぽんぽんしてくれる。
 それがなんだか懐かしい。
「もう……子どもじゃないのに」
 泣きながら笑うと、京ちゃんは頭をぐしゃっとしてきた。
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