あなたに恋する保健室
「どうした? なんかあったか?」
「先生、あれ……グラウンド、倒れてる人います」
 窓側の席に座る女子がそう言って窓の方を指差す。
 俺は確かめるために教壇を降りて窓を開けて見てみる。
「……優希!」
 あの後ろ姿は優希だ。
 周りには体操服の生徒たち。シャツのラインの色からして高二のクラスか。
 誰も大人がいない。きっと岡野先生が救急に電話をしてくれているだろうから俺ができることは──
「すまん、みんな。ちょっと自習していてくれ。応援行ってくる」
 俺は考えるより先に身体が動いていた。
 運良く授業していた教室は玄関に近かったから、柄にもなく全力で走ってグラウンドに駆けつけていた。
 優希と最近連絡取れてないな、保健室に顔を出すのが気まずくなってしまったからどうしたらいいかわからないだとか、そんなことは忘れていた。
 今はただ、優希の助けになりたかった。
「いち、にっ、さん、しっ……」
 現場に到着すると、その場の雰囲気が緊迫しているのが肌でわかる。
 よく頑張った。
 あとでそう言って思いっきり抱きしめたい。
 俺は胸元を緩め、腕まくりをして優希の肩を掴んだ。
「えっ」
「代わる」
「なんで……京ちゃ、舘山先生が」
 俺は無我夢中で心臓マッサージをした。
 こんなこと、研修でしかしたことないのに。恐れることはなかった。
 優希が隣にいれば、どんなことも怖くない。そう思った。
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