あなたに恋する保健室
「まさか、こんな形で再会するとはな」
「それは私も驚きました……」
 幼い頃からカッコイイとは思っていたけれど、今はさらに大人っぽさがプラスされて落ち着いた雰囲気。そんな過去と今とのギャップになんだか変な気分になる。
「東京の病院で看護師をして、その後クリニックからの養護教諭だっけ?」
「はい。クリニックで働いている時に養護教諭になりたいと思うようになって」
「看護師って養護教諭にもなれんの?」
「いえ、そういうわけではなくて。保健師課程のうち指定の科目の単位も取れば養護教諭二種免許も取れるって感じで。私は大学時代に看護師と保健師を取ったので、それで」
「すげぇ。大変そうだな〜。俺なんて大学生ン時遊びすぎたからなぁ。尊敬する」
 私がほかの先生に言ったことが、京ちゃんにも伝わっていたようだ。
 やっぱり新任者の経歴は話のネタになるよね……。
 そして、京ちゃんのことも噂で聞いた。
 最難関の国立大に入学できる学力があるにも関わらず、「実家が近い」という理由で地元の国立大を選んでいるということを。
「京ちゃんこそ、本当に先生になってたんだね。生物教師ってのは、納得」
 京ちゃんのご両親は教師をしている。それもあって、教師の道に進んだのはなんとなく想像していた。当時からそんな話をしていたし。そして、生物科というのも納得だ。
「まあな。だって虫好きだし」
 幼い頃から無類の虫好きだったから。
 京ちゃんはそう言いながら大きな笑顔を浮かべる。虫かごの方をちらりと見ると、モンシロチョウは羽をぱたぱたと動かしている。
 気づくと三十分ほど話していたらしい。
「あぁっ! やば! もうこんな時間か! そろそろ教室戻るわ。じゃあな」
「えっ!? あ、はい、……また」
 彼は急いで白衣と虫かごを抱え、保健室を去っていった。まるで嵐のよう。
「はぁ……」
 彼の走る音がどんどんと遠ざかっていく。
 私は溜め息をついて、ちょうど良くぬるくなったコーヒーを飲んだ。
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