お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました

第2章 追放の噂

「それで――ご存じですか?」

景文は眼鏡の奥から、真っ直ぐに私を見つめた。

「妃募集で妃になった方は、三年経ってもご寵愛を受けられない場合――」

言いかけたその言葉に、私は息を呑んだ。

喉がひくりと動く音が、自分でも聞こえた気がした。

「――実家に帰されるのです。」

「……えっ⁉」

あまりの言葉に、思わず声を上げてしまった。

「そんなこと……初耳です。聞いたことも……」

「でしょうね。」

景文は肩をすくめるように言った。

「実際に、三年も寵愛を受けなかった妃は、ほとんどいなかったのです。誰かしら、皇帝に呼ばれる。少なくとも、一度は。」

そう言うと、彼はすっと立ち上がった。

鏡台から私の前へと、ゆっくりと歩み寄る。

「あと一年、頑張ってください。」

その言葉は優しい声色で、けれど確かに“期限”を告げるものだった。

「……頑張る、って……何を?」
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