お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
問い返したくても、喉が震えて言葉にならなかった。

景文はもう一度だけ、私の目をじっと見つめ、

やがて静かに寝殿をあとにした。

扉の音が閉じる。

そして、またひとり。

揺れる灯りの下で、私は初めて、自分の立場が崖の縁にあることを知った。

翌朝。

私は、寝所から一歩も出られなかった。

「あと一年……」

ぽつりと呟いた言葉が、冷えた寝殿に吸い込まれていく。

「寵愛を受けられなかったら……私は実家に戻される」

今まで夢にも思わなかった言葉が、

いまや胸の奥に重く沈んでいる。

このまま何も起こらなければ、

私は“選ばれなかった妃”として、すべてを失ってしまう。

弟たちに顔向けできるだろうか。

後宮に入った意味さえ、消えてしまう。

「……どうしたらいいの……」

答えのない問いに、唇が震えたその時だった。

「――あのお妃様。」

そっと襖を開けて入ってきたのは、侍女だった。
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