お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
「あなたは……確か、周 景文殿。」

文部の頂点に立つと噂される、あの若き大臣。

すると景文は、静かに指を唇に当てた。

「しっ……。夜ですから。」

そして、意味ありげに笑う。

「これはまた、お美しい妃だ」

「……嫌味かしら?」

私の言葉には、とげが混じっていた。

明るい灯りの下にいても、心はまだ暗がりにいる。

けれど景文は、まるでそれが当然だと言わんばかりに、ゆったりと答えた。

「いいえ。あなたがご自分の美しさに気づいていないだけでしょう。」

その声音には、嫌味も皮肉もなかった。

ただ、まっすぐに、私という存在を肯定するような――そんな優しさがあった。

「……ふふ。」

思わず、小さく笑ってしまった。

笑ってしまう自分が、少しだけ悔しかった。

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