姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
Ep.167 無邪気な2人
―― side.広瀬真
そして迎えた日曜日。
約束の16時半からほんの少しだけ早く待ち合わせした駅前に着くと、すでに姫はそこで待っていた。
「遅ーい!アンタはいつも遅い!」
姫は腰に手を当て仁王立ちをして、拗ねたような顔をしている。
今日の姫は赤いタータンチェックの幅広のマフラーに白いコートを着込んでいる。
服装のせいかいつもより印象が甘く柔らかく見えて、一瞬誰かわからなかった。
吊り上がった丸くて大きな目に見られて、息を呑む。
ミニスカートから見えるタイツについ目を奪われてしまった自分を意識して、すぐ視線を逸らした。
(……クソ!)
冷気で頭を冷やしたくて、足早に風を切って姫の元へ向かう。
見ているこっちが寒くなる格好をしている彼女を、道行く野郎共もチラチラと気にしながら歩いていく。
フラフラとコイツの見てくれに騙されて吸い寄せられそうになっている奴らをさりげなく睨んで牽制した。
「いや、お前が早過ぎだろ。まだ待ち合わせ時間前だぞ。」
「5分前行動!小学校の時習わなかった?
私なんて20分前には来てたんだから!」
前開けのダウンジャケットのポケットに両手を突っ込みながら冷たくなった鼻を啜る。
いつも通りの憎まれ口に、無意識の緊張もほぐれた。
「今も10分前だからちょうどいいだろ。むしろ早いわ。」
「言い訳はいいのよ!私より遅れたんだから後で何か奢りなさいよー。あったかいものとか!」
「横暴かよ!ふざけんなブース。」
「ブスって言うな、バーカ!」
いつの間にかバラバラの歩調が揃っている。
人通りの多い往来を、ムキになって言い争いながら歩き出す。
イルミネーションを見るにはちょっと早い、夕暮れ時のことだった。