姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
金髪母はこの部屋に入った途端、完全に無色透明になって、静かにお茶出しをしている。

まるで“この部屋では存在してはいけない”と心得ているように。


――少しの沈黙が永遠にも感じられる。

居心地の悪さを誤魔化すように、ぎこちない所作で出されたお茶を静かに啜った。


え、これどうするのが正解?


下手な話題は余計に場の空気を地獄にしそうで、とりあえず微笑んでおくことしかできない。


隣で金髪の喉が小さく鳴ったのが聞こえる。

大きく息を吸い込んだ気配がして、金髪が意を決したように話し始めた。

「――父さん、見ての通り僕にはお付き合いをしている方がいます。
ですから今回の婚約の件は正式に取り下げてください。」

金髪が直球勝負で沈黙を破る。

そのキッパリとした言い切りに、私の緊張もほんの少しだけ緩んだ。

「真さんとは真剣にお付き合いをさせていただいています。
……私からもどうか、お願いいたします。」

両手を床につき、恭しく首を垂れてから金髪父をまっすぐ見つめる。

見よ、この健気な瞳を……!
これで心動かない奴なんていないでしょ?


「君は、一般家庭のお嬢さんのようだね。」


低い声が畳を震わせる。
たった一語で空気が冷えた。

「そう、ですが………。」


近江涼介とはまた別の迫力にドキッとする。

揺り戻った恐怖に心臓が凍りついて、金髪父を見つめていた目を思わず逸らした。


「真は由緒ある広瀬家の長男でね。
将来広瀬グループを背負って立つことを約束されている。

その妻たるもの、それ相応の家の出でなければ認められない。
――故に、悪いが交際は認められない。」

厳しい言葉に息を呑む。

何を言っていいかもわからず固まってしまった私の隣で、金髪はテーブルを叩いて勢いよく身を乗り出した。


「父さん!そもそも僕は跡を継ぐことを決めていません!
だから僕は――……」


「黙れ。」


声を荒げた金髪を、たった一言で金髪父は鋭く制する。

その眼光は鈍く光り、睨んだものを刺し殺すような威力があった。
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