秘めた恋は、焔よりも深く。
ケーキの箱を紙袋に入れ直しながら、龍之介はふと、美咲のカップに目をやる。

「ここ、よく来るの?」

「いえ。……実は、たまたま降りた駅で、偶然見つけたんです。ちょっと疲れてて、ふらっと」

「……そうか」

会話が途切れ、少しの静寂が落ちる。

「じゃあ、また」

そう言いかけた龍之介が、ふとためらうように足を止める。
「……引越し先、決まりそう?」

その問いに、美咲はほんのわずか、目を見開いてうなずいた。
「まだ決めてはいません。でも、今日は……いい感触の街に出会えた気がします」

「そうか。……よかった」

龍之介は、それ以上何も言わず、そっと会釈をして出て行った。

扉のベルがもう一度鳴る。

その背中を見送りながら、美咲はカップを両手で包み込む。

(……また、会える気がする)

そう思った瞬間、自分の心のどこかが、確かに熱を帯びていた。
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