秘めた恋は、焔よりも深く。
龍之介がドアを開けて乗り込むと、車内には控えめなクラッシックが流れていた。
後部座席にいる真樹はスマートフォンを眺めていたが、龍之介の気配に気づき、ちらりと顔を上げる。

「……で、なんだその顔」

龍之介は窓の外に視線を向けたまま、無言を貫こうとしたが、

「佐倉さんでもいたか?」

その一言で、ピクリとまぶたが動いた。

「……いたよ。偶然な。カフェにいた。俺より先に」

「ほう」
真樹は愉快そうに眉を上げる。

「声かけたのか?」

「そりゃあ。向こうも気づいたから」

「で?」

龍之介は少しだけ言葉に詰まり、息を吐く。

「……ただの立ち話だよ。引っ越し先、まだ決まってないって」

龍之介は少しだけ言葉に詰まり、息を吐く。

「……ただの立ち話だよ。引っ越し先、まだ決まってないって」

「ふぅん……ただの立ち話、ねぇ」

そんな他愛ないやり取りのなかで、車はゆっくりと夜の街を走り出した。


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