もう女じゃないなんて、言わせない
それはずっと胸の奥で燻っていた本音。

でも、口に出してしまうと、なんだかとても哀しくて、弱くなったような気がした。

欲しいのは、欲望じゃない。

満たされたいのは、身体じゃない。

誰かにちゃんと、心ごと愛されたい。

黙って歩く私の背中に、東條の声が届いた。

「……悪かった。」

低くて、かすれたような声だった。

私は振り返らなかった。

でも、その一言に、少しだけ足が緩んだ。

そしてふと前を見ると──

ハッと息を呑んだ。

いつの間にか、ラブホテル街。

ほんの数分、気まずい空気のまま歩いていただけなのに、気づけばネオンの光が並ぶ道に入り込んでいた。

まずい、と思って立ち止まり、振り返る。

「……ちょっと、ここ……」

言いかけた言葉が止まった。

東條が、目の前のラブホテルの看板に釘付けになっている。

その様子が、妙に真剣だから、逆に怖い。
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