もう女じゃないなんて、言わせない
「なあ、一年してないって……元カレと別れてからしてないってこと?」

東條がグラスを傾けながら、不意にそう言った。

「うん。よく覚えてるね。」

私はちょっとだけ驚いた。

あの頃のことなんて、もう彼は忘れてると思ってた。

東條は、皿に残った最後の唐揚げを箸でつまみ、私の小皿にそっと乗せた。

「俺とイタリアン行った時、“別れたばかりです”って言ってたじゃん。」

ああ。
そんなことも、あったかもしれない。

レモンの香りのする店内で、ワインを口にしながら、ふとそんな話をしたような記憶がある。

「男ってさ、ああいうふうに言われると……手、つけられないんだよな。」

東條の声は、からかってるようで、少しだけ本音の響きを含んでいた。

私は彼を、まっすぐに見つめた。

目を逸らさず、正面から。

「もしかして……あの時、付き合おうって言わなかったのって、元カレを忘れてないと思ってた?」

東條の手が、グラスの縁で止まった。
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