野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上
これまで六条(ろくじょう)(いん)日陰(ひかげ)だった冬の御殿(ごてん)が、一気に華やいだ。
ご出産祝いがつぎつぎと届き、尼君(あまぎみ)の嬉し泣きも止まらない。
ただ、将来(みかど)におなりになるかもしれない皇子(みこ)様のお祝いの場としては、冬の御殿は弱い。
女御(にょうご)様のご体調が回復されたら、女御様と皇子(みこ)様は春の御殿にお戻りになるはずよ。

無事のご出産と聞いて、(むらさき)(うえ)もお見舞いに上がられた。
女御様の養母(ようぼ)として、すっかり祖母君(そぼぎみ)のお顔で皇子様をお()きになっているの。
生まれたばかりの赤子(あかご)をご覧になるのは初めてだから、めずらしくてかわいらしいとお思いになる。
ずっと抱いてお離しにならないので、本当の祖母君である明石(あかし)(きみ)は遠慮して、産湯(うぶゆ)の準備の手伝いをしている。

東宮(とうぐう)様から派遣(はけん)された上級女官(にょかん)が皇子様を産湯にお入れする。
その補助を明石の君がしているのは、身分からいえばおかしくないけれど、悲しいことよね。
<この人が女御様の母君(ははぎみ)か。低い身分の人らしいが、まったくそうは見えない。いかにも下品な人だったら、そんな母親を持って女御様がお気の毒だと思っていたけれど、驚くほど気高(けだか)く、将来帝の祖母君におなりになってもおかしくない人だ>
と女官は感心している。
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