キラくんの愛は、とどまることを知らない

side キラ




 
「“ひよ子ちゃん、昨日はお疲れさま、釣った魚は食べたかしら? 良かったら今日、稀羅くんのマンションで一緒に食べない? ”───はい、送信っと♡」

 朝から、健二が現れた。
 そしてブツブツと何か言っている。

「うふふっ私、いい仕事するでしょ? ひよ子ちゃん、きっと来てくれるわよね、断れない子だから」

 ブブッ……
 
「あ! キタキタキタっ……え……あらあら……」
 
「……」
 
 あらあらって……だからなんだよ、気になる所で無言なるんじゃねぇよ。

「……なんだよ! ひよ子は来んのか?!」

「……もう、素直に聞けばいいのに───残念だけど先を越されたわ……今日は主任と魚パーティーですって、ひよ子ちゃんちで───なかなかやるわね、あの主任()

「───っはぁ!? あいつ、上司だろ?! 何、部下の女の部屋に上がろうとしてんだよ! セクハラパワハラだ!」

 何なんだ、あの男……いつの間に! 昨日は付き合ってる様子は全くなかったのに。

「セクハラでもパワハラでもないわよ、上司と部下だって会社をでればただの男と女よ♡いやぁ〜ん、主任気に入ってたのにぃ」

「健二が主任を落としとけば良かったんだ」

「主任はノンケよ? さすがの私でも、初対面で落とせるはずないじゃない」

 さすがの私って、聞き間違いだよな?

「でも困ったわねぇ……当てが外れちゃった。二人で食べる? あ、相馬くんと白森くんを呼ぶ?」

 そんな気分になれない。ひよ子が部屋であの男と一緒だと考えたら、おっさん達と魚なんか食ってる場合じゃない。

「……」

「もう! 本当にわがままね! そうゆう所よっ───あ、もしもし白森くん〜? 今日のランチの予定は決まってるぅ? 良かったら、稀羅くんちで魚食べない〜? ───」

 面倒くさいな、本当に冬亜の事呼びやかった……しかも、あいつ来るのかよ、いつも忙しいって言っているくせに。

「ほら! 白森くんも、最近の貴方が心配で忙しいのに来てくれるのよ。シャキっとして、早く相馬くんを呼んで!」

「……」


 ──────


「え、つまりひよ子ちゃんは今、要警戒のレッドマーカー“みんなの主任”と魚パーティーしてんのか?」

 何故お前が要警戒(それ)を知っている白森冬亜。アレは俺と相馬が秘密裏に集めた情報から定めたリストだぞ……

「よりにもよって彼ですか……私はあの方は最もひよ子さんに警戒心を抱かせず近づき、あっさりと掻っ攫うタイプの人物だと思っていましたが、そのとおりになりましたね」

 メガネくいっじゃねぇよ相馬……

「掻っ攫うって大げさな……ひよ子にとっちゃあんなのおっさんだろ、10歳も上だし恋愛対象じゃなくてよくて近所のお兄ちゃんだな」

「にしちゃ、レッドマーカー指定なのね……」

 うるさいぞ健二! なんだその顔は!

「でも年上の包容力のある男を好む女は多いぞ。特に、ひよ子ちゃんみたいな家庭環境の子なんてまさにだろ。金はあんま稼げないにしても仕事は安定してるし、残業なし、土日祝日夏季冬季休み、定時帰宅とくりゃ……理想の父親だ」

「……うちはたしか週休三日だろ? もっといいじゃないか!」

 大体、どうしてひよ子達の勤め先まで知ってるんだ冬亜(こいつ)は……誰だ、リークしてんのは……相馬か? 健二か?

「でも、冗談じゃなく主任はいい男だと思うわ。柔らかい空気をまとってるけど、まわりがよく見えてるからフォローも会話も上手だし。何より顔が爽やかで、体幹もしっかりしてるし、あの身体よ……きっと彼が脱いだら女は間違いなく惚れるわね」

 見たのか健二……? いつの間に?

「手、早いな健二くん! もう身体見る関係なわけ?」

 冬亜が笑いながらツッコミをいれた。何でそんな事が気になるかな……興味ないだろ。

「違うわよっ魚が跳ねて海水が顔に飛んだ時に、腹チラで顔拭いてたのよ、バスケ部っぽかったわ。腹筋もさることながら、あの腹直筋下部がたまらなくエロかったの♡」

「腹チラ? 稀羅もいい身体してんじゃん、なんか違うの?」

「稀羅くんはねぇ〜、なんか雄味(おすみ)が足らないのよね、顔が綺麗すぎて───その点、主任はよく見たらイケメン、くらいだから、ギャップがたまらないの♡」

 何故俺は今、おっさんに身体と顔について評価されてるんだ……

「ふーん、乙女心(・・・)は難しいんだね」

「何言ってるのよ───女の事なら白森くんってまわりから言われてる男がっ」

 何の会話だよ、もう、皆帰ってくれないだろうか。
 俺、眠いんだけど……

「あれ? 相馬、たしかひよ子ちゃん所から、ウチにシステムの入れ替え依頼きてたよな?」

「ああ、それならfree.Hoffに流されてると思います。ただの入れ替えですし。既存のものを大きく変えるようなものじゃありませんでしたからね」

 free.Hoffって、確か白森が作った子会社か。確かウチ作ったやつの修正とかメンテナンスしてるんだったか……

「あら? その話なら、私主任から聞いたわ。主任とひよ子ちゃんで担当してるんですって。だから、ひよ子ちゃんと話す機会が増えたって───打ち合わせにきたSEがやたらイケメンでお洒落だったって言ってたわ。あんたんトコ、見た目採用なの? 紹介しなさいよ」

 健二うるさい、黙れ、雑食め。
 ちゃっかり相馬の隣をキープしているだけでなく、腕まで組んでいる……相馬も相馬で、岩かなんかが隣にある程度にしか気にしてないようだ。

「おい、冬亜……free.Hoffで俺の名刺作れ」

「は? お前まさか……」

「いやいや、それは駄目よ稀羅くん、さすがに引くわ」

「稀羅さん、貴方がするような案件ではありません」

「うるさい。ひよ子の会社のシステムなら俺がするべきだろ! そもそも今のシステムは三年前に俺が作ったんだからな!」

「「「……」」」


 仕事でもプライベートでもひよ子と一緒とか贅沢が過ぎるだろ! 主任は職場で主任だけしてればいいんだ!


 
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