キラくんの愛は、とどまることを知らない
 
「はじめまして、稀羅の友人の白森です。ようやく会えたね、ひよ子ちゃん」
 
 どうしてキラさんの周りの人はみんな名乗る前に私の名前を知っているのだろう。
 
「はじめまして、お名前はよく伺っておりました。お会いできて光栄です」
 
 この人があの会社の代表でありCEOでもある御方……
 
「なんで来たんだよ」
 
「なんでって、健二くんから連絡を貰ったからだよ。わざわざ仕事を切り上げてきたんだからな」
 
「……」
 
 キラさんの表情が、来なくてよかったのに、と言っている。
 それにしても、この人がキラさんよりも顔も性格もいいという噂の……はたして、そうだろうか?
 
「(小声)私は、キラさんのお顔の方が素敵だと思いますけど……」
 
「ん? 何かな、ひよ子ちゃん」
 
 ……いや、確かに白森さんはキラキラしている。キラさんには無い、華やかさがある人だ。ただ、私には少し眩しいかもしれない。
 
「ひよ子、今の……俺、聞こえちゃった……」
 
 キラさんが私の隣で両手で顔を隠していた。どうやら照れているらしい。
 
「聞こえちゃいましたか? すみません、私ごときが……」
 
「いや、嬉しい……ありがとう」
 
 ほわわわっとした空気が、その場に漂っていた。
 
「おい、俺いるんだけど」
 
「うるさい、さっさと帰れ」
 
 キラさんの白森さんに対する扱いがひどすぎる……でも、二人にはそれだけの歴史があるのだろう。なんだか羨ましい関係だな、と思ってしまった。
 
「ねぇひよ子ちゃん、ちょっとこの男を叱ってくれないかな? いきなり自分の名前で子会社の名刺を作れだの、他の奴が担当してた仕事を料金そのままで自分に回せだの、無茶な事ばっかり言うんだよ。相馬も俺も振り回されっぱなしでさ」
 
「どっどうしてお前はそういうことを!」
 
 その話には心当たりがあった。もしかしなくても、ウチの会社の案件だろう。
 
「キラさん、そんなに周りに迷惑をかけてまでどうして……っもし私のせいなら、お二人に申し訳が立ちません……」
 
「あっ……いやっ……違くてっ……! ───っ! 冬亜! お前のせいだぞっ!」
 
 おそらく事実なのだろう。たじろぐキラさんは、言葉に詰まり、白森さんに言い返した。
  
「あははははっ! 本当なんだなっ、本気なんだな稀羅っ! お前のそんな姿、初めて見るぞ! それなりに付き合いは長いってのに……そうか、そうなんだな……そっか、少し悔しいな……」
 
「……?」
 
 一瞬、白森さんが寂し気な表情を見せたのを、私は見てしまった。
 
「ひよ子ちゃん……稀羅はこんなだけど、間違いなくこの世の誰よりも素直で正直で一途でいい男だよ。俺もこいつも、雲の上にも違う世界にも住んでない。君と同じ地面の上に立って、日々もがいて生きてるんだ。今ある肩書きなんて、世界情勢が変われば一瞬で価値がなくなる可能性だってあるしね。だから、そんなのは抜きにして、こいつ自身を見てやって欲しい。大事な親友なんだ、誰よりも幸せになってもらいたい。頼むよ……」
 
「っ……」
 
 何か起きているのだろうか……多くの社員を抱え、その全員の生活を背負っている白森さんが、私なんかに頭を下げている? いや、私ではなく、親友のキラさんのために……


「……はぁ───……ひよ子、騙されるな。これがコイツの手口(・・)だ」

「……え?」

 手口? どういうことだろうか。二人の友情に凄く感動したのに。


「バラすなよ、お前のためなのに」

「ふざけるな冬亜。誰かに頭下げられたひよ子に、同情されたって嬉しくもないし幸せでもない」

「わがままだな!」

「お前は俺を仕事に集中させたいだけだろ!」

「はんっ! バレたか!」

「やっぱりな! 本性を現しやがった! 聞いたかひよ子! これがコイツの本性だ!」

 二人の会話についていけない。

 と、そこに健二さんが料理を手に戻ってきた。

「ふふっ……ひよ子ちゃん、白森くんの発言はいつも劇場型なの。あの調子で、心に響きそうなスピーチをするもんだから、場をうまく盛り立てるのよねぇ〜。でも、さっきのは本音を言ってたと思うわ」

 劇場型? ……スピーチ? ……さっきのが?
 
 違う……健二さんの言うように、あの人は嘘を言っていなかった。いくら鈍感な私だって、あの真剣な目てまっすぐ見つめられればさすがにわかる。

 本当に、キラさんの周りには素敵な人が沢山いるんだな。


「け、健二さん! 料理っ出来たんですね! わぁ、美味そう! 頂いてもいいですか?」

 顔中に真っ赤なキスマークを付けた主任が、逃げ込んでくるように、私の隣に戻ってきた。

「ええ、召し上がれ♡ほっぺが落ちるわよ」

 私は目の前に取り分けられたオムライスと唐揚げ、カレーというまさに自分の好物であるラインナップを前に、スプーンを手に取る。

「美味しい……健二さん、本当に落ちますね───ほっぺ」

 私はこの瞬間に気付いた。

 私の好物をスラスラとオーダーしてくれた隣の人物が、どれだけ自分にとって得難くかけがえのない存在なのか。一生で出会える確率が極めて低いであろう相手なのか……


「キラさん……美味しいですよ、一口食べますか?」

「え!? い、いいのか?!」

 私はオムライスをスプーンにすくい、キラさんの口に運び入れる。

「……健二、腕を上げたな」

「馬鹿ね、いつもと一緒よ。そうね、強いていえば、スプーンが違うんでしょ」

「ん? オムライスも美味そうだな、吉良、俺にも一口くれ」

 主任がそう言うので、キラさんが食べたスプーンでそのまますくって主任にも食べさせた。

「……おいお前! 何俺と間接キスしてんだよ! 俺はそのスプーンをひよ子が使う所を見たかったのに! 馬鹿か!」

「……え、キラくん怖い……」

「お嬢ちゃん! そのスプーンを私によこしなさい!」

 あ……さっきの主任を連れて行ったおネエさんだ……

「おいっ! ひよ子に触るなジュリアッ! 潰れちまうだろ!」

「きゃーキラきゅんが私に触ってくれてるわぁ! 見てみて健二! キラきゅんの手が私に触れてる! 一生洗わなぁ〜い♡」

 ジュリアさんという名前らしい……キラさん、知り合いだったのに、主任を餌にして放置してたのか……

 なんだか凄く騒がしい……でも……

「……ふふっ───このお店は楽しいですねっまた来てもいいですか?」

「もちろんよ♡」

 私はその日、初めてキラさんを前に心から笑えた気がした。


 
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