キラくんの愛は、とどまることを知らない
side キラ
「なるほど、それで平日は会えなくて寂しいからここに来る、と……ずいぶんとまぁ、変わったわねぇ稀羅くんも───今まではこの世には“俺とひよ子とその他”しかいない、みたいな感じだったのに」
ひよ子の恋人生活五日目……すでに彼女に会いたい。でも会えないので、仕方なく健二の店に来て惚気話を聞いてもらっている。
───どさくさに紛れて連れ込んだ金曜日の夜から、日曜日の夕方まで、ひよ子とずっと一緒にいた。
幸せすぎて夢なんじゃないかと、何度も水で顔を洗いに行ったほどだ。
今日は火曜日の夜。
金曜日まではあと三日も一人で寝なければならない。耐えられるだろうか……
「はぁ……」
「それにしても、ひよ子ちゃん、意外だったわよね」
「何がだよ」
ひよ子は見たまんま、可愛くてかわいい。
「稀羅くんのパパの事よっ。普通は驚いたあと、冷静になったら引くわよ」
「ああ、まぁ俺も言うタイミングは考えてたんだけどな……あのクソ女……」
思い出すだけで頭にくる。あの政宗にしかり……
「“キラくんはキラくんです”っかぁ……しびれちゃうわよね。私も“健二さんは健二さんです”って言ってもらいたぁい♡」
俺はひよ子が俺の父親が大臣である事に驚いたり引いたりしていなかった理由を口にするため、周囲をキョロキョロと見回し、安全を確認した。
「それがさ、ヒカリちゃんの母方の爺さん、宮内庁の長官らしいんだ。んで、親父さんは内閣危機管理監……」
「……うん、聞かなかった事にするわね。でも、それなら納得。ひよ子ちゃん、耐性があったわけね」
「そうゆう事だ。まぁ、助かったよ」
その話しを聞いて、俺はヒカリちゃんがあの年齢であのマンションを所有していた理由わかった。
実は前にひよ子が住むのなら、とあのマンションのセキュリティシステムの年式や建物に設置してあるシステムなどを調べたのだが、かなり手厚かった。俺のマンションと同じで、24時間コンシェルジュが常駐しているだけではなく、警備会社の営業所まで入っているのだ。
もちろん立地もいいし、そもそもが値が張る物件であるため、住民の質も良さそうだ。
だからこそ、あのマンションからひよ子を無理矢理出すのも気が引けるというか……むしろ一番安全というか……
「そんな凄い子の婚約者のコウくんが、ただの交番勤務の癒し系イケメンお巡りさんだってんだから、なんだか夢があるわよねぇ~♡ 同じ令嬢でも、美九里ちゃんとああも違うって……やっぱり親の育て方かしら?」
「親友の存在じゃないか?」
つまり、ひよ子と仲良くなったおかげで、ヒカリちゃんはあのクソ女みたいにならずに済んだに違いない。
と、そこに顔色を悪くした冬亜と疲労困憊の様子の相馬が現れた。
「いらっしゃぁ~い、大丈夫?」
「……大丈夫じゃない。まずい事になった」
「稀羅さん、落ち着いて聞いてください……」
冬亜の後に続いた相馬の話はこうだ───
簡単に言えば、あのクソ女……美九里が俺の存在を週刊誌にリークしたらしい。
“法務大臣 黒霞氏の次男は世界で活躍! 若き資産10億ドル以上だった!?”
“日本での肩書きは、zuv.tecのExecutive Advisor!! 天才と呼ぶに相応しいSE、PGの二刀流! さらにはモデル顔負けのスタイルと整った容姿に女性はうっとり、天は二物を与えた!!”
相馬が持つタブレットに表示された記事を、俺と健二が覗き込み、確認する。
「……これが金曜日発売の雑誌とネットニュースに流れる」
冬亜が言った。
「まぁ……そのとおり過ぎて、ツッコミどころのない記事ね」
健二が呟けば、冬亜も同意を示す。
「そうなんだよ、金で潰すにもただの事実だからな……」
「でも待て……事実とはいえ困る。俺は今、ひよ子の会社に出入りしているからな」
「だから、それも終わりだ。付き合ったんだから、もういいだろ? 子会社の社員に任せろ、心配なら最終チェックはお前がしてもいいが」
俺はそんな中途半端な仕事はしない、舐めるなよ。だが問題は……
「問題は稀羅さんに注目が集まる事で、必然的にひよ子さんにも影響が出る可能性があります」
相馬の言うとおりだ。
「相馬、ひよ子の実家はどうなった?」
「ひよ子さんに許可を得て、こちらで買い取りました。現在は名義変更の手続き中で、済み次第売却します。例の件が公表されて価格か下がる前に……と」
それは……まぁ、そのまま走らせとくか。どうせ変更登記中ならば、見ようと思っても今はわからないだろう。
「でも、ひよ子ちゃんと主任の噂は消えたの? 二股とかありもしない事を書かれたりしないかしら?」
「その問題もあったな……」
主任に辺見を紹介したのは先週の事だ。さすがにまだ進展はないだろう。
「稀羅、ひよ子ちゃんと話し合って決めろ。お前に注目する奴らの熱が冷めるまで、しばらく会わない方法をとるのか、追われて騒がれる事を覚悟で交際を隠さないのか」
───……ふざけるな。会わない? ひよ子に会わない? 今日だって会いたくて仕方ないからここに来てるのに。
「二人は付き合ってまだ五日目なのよ? ……さすがにこれは可哀想過ぎるわ……美九里ちゃんたら……本当にヤバい子ね。次に会ったらお仕置きしなきゃ……」
健二の言うとおりだ。次に会ったらじゃなくて、今すぐお仕置きが必要だろ。
「冬亜、事実だろうが、金で潰せないのか? その週刊誌の会社を買収すればいいか? 相馬、間に合うか?」
面倒だが、二度とそんな記事書かせないためにも……買っとくか。
「あんな会社、買うだけ無駄ですよ……記事自体は潰せなくはないですが……白森代表が……」
相馬は気まずそうに冬亜を見た。
「稀羅、これを逆手に取ればzuv.tecの宣伝になる───まぁ、安っぽいダサいやり方で嫌だが……ずっと嫌がってたけど、お前の凄さを世に知らしめる時が来たんだよ」
「……は? 冬亜、お前それ本気で言ってるなら許さないぞ」
俺は、有名になりたいんじゃない。凄いと思って貰いたい人は一人だ。
「怒るなよ稀羅……そもそも、俺が代表やってるのも本当は違うって皆が思ってるんだからな」
「そんな事ない」
「それはありえません」
「ないわ、ないない」
口を揃えた。
「お前らは、な……他の役員達や社内でお前を崇拝してる奴らがいっぱいいるんだよ」
美九里になんか言われたに違いないが、またいつもの冬亜の手口なのかはわからない。
「とにかく稀羅、注意しながらひよ子ちゃんと話し合ってこい……少なからず、あの子も何らかしら影響を受けるんだから」
「稀羅くん、なんなら店使っていいから。良かったじゃない、金曜日の前に会えるわよ」
そんな話しをするために会いたいわけじゃない。
ひよ子に迷惑をかけるのは絶対に嫌だが、会えなくなるのも嫌だ……
───……美九里のヤツ、許さないからな!