キラくんの愛は、とどまることを知らない
 
 キラくんとの楽しい週末を終えた月曜日───
 
「……どうした? 元気ないな」
 
「えっ?! そんなことないですよ」
 
 久しぶりに主任から話しかけられた。
 
「その節は、色々とありがとうございました。健二さんから聞いているかと思いますが、無事解決しました」
 
「本当だよ、まじでビックリしたんだからな! (小声)いきなり誘拐されたとか連絡されるこっちの身にもなってくれ」
 
「ははは、本当にすみませんでした。咄嗟に、職場で頼れるのは主任しかいない思って……」
 
「……お前さ、そういうところだぞ……まぁいいか、元気なら」
 
 主任は私の頭をわしゃわしゃとして、去っていった。
 
 白森さんの会見のおかげか、今では私と主任の噂も消え、私とキラくんの噂も今ではほとんど誰も気にしていない。平和な日常が戻ってきていた。
 
 
 
 
 しかし───
 
 昼休み、スマホに見知らぬ番号からの着信があり、知らない番号なのでいつものように無視した。
 
 しかし同じ番号からしつこく何度もかかってくるため、ブロックしようとしたところに、メッセージを受信した。
 
『お姉ちゃん、妹のつぐみです。電話でてよ』
 
 ゾッとして、思わずスマホを落としてしまった。
 
 何故私の番号を知っているのか。美智子おばさんから聞いたのだろうか。
 
 無意識の中で、私はあの日会った成長した妹の存在を受け入れられていないのかもしれない。
 
 その後も、何度かかかってきたがすべて無視した。なんだか憂鬱で、健二さんの作ってくれたお弁当も、喉を通らなくなってしまった。
 
 まだ月曜日が始まったばかりだというのに、勘弁してほしい。
 
 
 
 
 
 
「ねぇ吉良さん、さっきからずっと携帯なってない?」
 
「すみません、いたずら電話がしつこくて……」
 
「えー、怖いね。ダーリンに相談したら? ふふっ」
 
「ははは……」
 
 
 その後も、妹のつぐみからの着信は続いた。
 キラくんから、絶対に何があってもスマホの電源は落とすな、と言われているため、電源をオフにすることは出来ない。
 大事な連絡に気付けなくなるのは嫌だが、仕方なくサイレントモードに切り替えることにした。
 
 それにしたって、一体何だというのか。私は彼女と話すことなんて何もない。父の相続の件も、相馬さんから、すべて弁護士に任せてあるから何も気にしなくていいと言われている。
 
 
 明日もこんなにしつこく続くようなら、ヒカリに相談してみよう。
 そう思ったが、私のスマホは夜もずっとなりっぱなしだった。
 
 もう限界だ、と思った私は仕方なく電話に出た。
 
 
「もしもし」
 
『あー! やっとでたぁ! 仕事中は携帯見れない系? メッセージ見た? 妹のつぐみでぇす』
 
「何か用? こんなに何度もかけてくるなんて、少し非常識だと思うけど」
 
『なに怒ってんの? だって、お姉ちゃんが出てくれないから』
 
 若者独特の話し方に、少しイラっとしてしまう。
 
「それで、用件はなに?」
 
『ねぇ、お姉ちゃんの彼氏ってあの大臣の息子でお金持ちの有名な人だよね? 今度、私とママをちゃんと紹介してくんない?』
 
 魂胆が見え見えのその言葉に、吐き気がした。
 
「……悪いけど、捨てた娘に興味持たないで欲しいって伝えて。あなたも、二度と連絡してこないで」
 
『え、ちょっと何ツンケンしてんの? 血のつながった家族なんだから、仲良くしようよ』
 
 ……血のつながった家族? 笑わせないで欲しい。捨てたくせに。妹だけ連れて行って、私の事なんてどうでもよかったくせに。
 
「っ!」
 
 私は自分が暴言を吐きそうだったため、電話を切った。
 
 その後も、何度もしつこくかかってくるので、私は妹の番号をブロックした。
 
「しらないっ、関わりたくない! やっと色々落ち着いたのに、邪魔しないで!」
 
 スマホをベッドに投げつけ、お風呂に入りに行く。
 
 
 
 しかし……お風呂から出ると、違う番号から何度も着信が入っていた。
 なんとなく嫌な予感がする。つぐみが、母親の番号からかけてきているような気がしてならない。
 
 私はその番号もブロックし、その日はすぐに寝ることにした。
 
 
 
 
 
 
 
 翌朝、スマホを見ればキラくんから何度かメッセージと電話が着ていた。
 その他、ブロックした番号からも着信とメッセージ入っているが、気分が悪いので見ないでおく。
 
 出勤準備を済ませた後、駅までの移動中に、キラくんに電話をかけた。
 
「もしもし、おはよう。昨日はごめんね。すぐに寝ちゃったの」
 
『連絡が取れないから、何かあったのかと思ってマンションに行こうかと思ったよ』
 
 心配性のキラくんを刺激してしまったようだ。
 
「キラくんみたいな有名人と違って、私みたいな一般人は基本的に何もないから大丈夫だよ。あんまり心配しないで」
 
 そのまま少しくだらない話をした後、電話を切って、電車で職場に向かった。
 
 
 私のスマホはブロック中の相手からの着信の履歴が残ってしまうタイプだ。
 
 どうにかして残らないように出来ないだろうか……このままでは、着信履歴が“ブロック中”という真っ赤な文字で埋め尽くされてしまう。
 
 
 ───……よし、そろそろこのスマホも古くなったし買い換えようかな。
 
 もったいないと思いつつ、もう6年くらい使っているが、電池の減りも早くなってきているし、買い替え時だろう。
 
 私はその日、仕事の後に携帯ショップへ寄った。
 
 
「すみません、ブロックした相手の着信履歴が表示されないようにするにはどうすればいいですか?」
 
 今使っている機種の後継機を選び契約した後、担当してくれたお姉さんに尋ねてみた。
 
「この機種だとその辺りの設定は出来ませんね。別のメーカーのものなら可能なんですが……」
 
「そうなんですか……」
 
 別の機種にして、使い方がわからなくなるのは困る。私はそういったことに疎いのだ。
 
「あ、でもそもそも電話帳に登録のない番号以外からはかかってこないようにすることはできますよ。お年寄りやお子さん向けの機能なのですが」
 
 それだっ!
 
「それ、設定してください!」
 
 いい事を教えてもらえた。どうせ私に連絡してくる人など少ない。最近は少し増えたが、いざとなればキラくん経由で問題ない人たちばかりだ。
 
 私はホクホク顔でマンションへと帰った。
 
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