キラくんの愛は、とどまることを知らない

side キラ




 
「……ひよ子の嘘つき」

「あんなっ……パン屋さんで突然プロポーズする人いないでしょ?!」

「ここにいる」

 プロポーズが成功したと思ったのに、入籍は保留にされた。

 正直、ひよ子を困らせるだけだと思っていたから、まだ言うつもりなんてなかった。

 でも……冬亜達とあんな話をしたからか……俺と食べる朝食のパンを選ぶひよ子を見ていたら、無意識に口から出てしまった。

「まぁ……1回目のプロポーズは成功したわけだから、2回目以降も成功出来るように頑張るよ」

「……え?」

「違うか、すでに20年前にしたようなもんだから、今日は2回目が成功した事になるんだな……」

 プロポーズって、普通、何回するもんなんだろう。指輪を渡すプロポーズは何回目なんだ?

「キラくん、何回もプロポーズしてくれるつもりなの?」

「え、結婚するまでし続けるんだろ? 違うのか?」

「……そう、なの? 知らなかった……大変なんだね、男の人って……」

 俺達は気付いていなかった。
 自分達の恋愛知能指数が、幼稚園児レベルだという事を。いや、主に俺が、だが。



 ──────



「なぁ、プロポーズって何回目で指輪渡すんだ? 101回目か?」

 ひよ子に会えない平日、飯を作りに来た健二に尋ねてみた。

「……プロポーズって何回目とかあるわけ?」

「……ないのか?」

「……よく、一世一代のっ、とかって言わない?」

「……」

 早めに気付いて良かった。
 幸い、ひよ子も気付いていない……はず。

 これまでにしてしまった2回については、今さらどうにも出来ない。幸い、成功はしているのだから、3回目が俺の本気だという事にしよう。

 ダイビングを気に入っているひよ子なら、水中プロポーズがいいかな?
 いや、指輪がどっかにいったら大変だな……

 夜景? 星空? 海? ……公園?

 あの公園はまだあるだろうか。俺達が初めて出会ったあの、幼稚園終わりの園児のたまり場になっていた……今度行ってみよう。

「指輪……って何個必要なんだ?」

「ひよ子ちゃんの左手の薬指の本数だけで十分じゃないのかしら……」

「……2本か」

「え、怖っ」

 ───……俺のも含めて、だよ。



 翌日、俺は健二に勧められたジュエリーショップに入ってみた。

「……こんなにデカいダイヤ贈ったら、ひよ子が倒れちまう……健二のやつ……」

「ご婚約指輪をお探しですか?」

 一人でブツブツ言っていたからか、店員が話しかけてきた。

「ん? ああ、でも……華奢で可愛い感じの女性なんだ……少し合わないかもしれない」

 宇宙一可愛らしい女性と言いたかったが、我慢した。

「もちろん、そういった方でもお似合いになるデザインもございますよ───こちらなど、いかがでしょうか」

 提案されたのは、一周ぐるっと小さなダイヤが敷き詰められた細いタイプや、小さめの石が乗っかってるタイプなどだった。

「まぁ、悪くないな……色白だから、プラチナよりローズゴールドが似合うと思うんだが」

 ひよ子は、冷めた印象のプラチナよりもピンクゴールドやローズゴールドなんかの温かみのある色の方が似合う気がする、絶対。

「さようでございますか、ご予算はございますか?」

「上限は決めてないから気にしないで見せてくれ、彼女に本当に似合う物を贈りたいんだ」

 店員は若干嬉しそうに、あれこれと俺に提案し始めた。

「……悪くないな」

 しかし、サイズがわからない……

「サイズがわからないから、調べてまたくる」

「かしこまりました、お待ちしております」
 


 その日、俺はひよ子の職場の前で待っていた。
 もちろん、事前に約束はとりつけてある。

 すると……

「キラくん! やあ! サンダルありがとう! ダイビング楽しみにしてるよ!」

 主任が一人、現れた。声がデカいせいで周囲の視線が集まってしまったではないか。

「ひよ子は?」

「今来るよ、これからデート?」

「ああ、ひよ子の指輪のサイズを調べたいんだけど……なんかいい方法知ってるか?」

「ゆ……指輪? そう、指輪ね……指輪……プロポーズかな?」

 あ、この人、ひよ子の事好きだったんだった悪い事したな……辺見はどうした、あいつ……

「いや、いいや。悪かったな」

「指輪のサイズなら、普通に適当な雑貨屋にでもある安い指輪で試してみたらいいよ。本格的なジュエリーショップじゃ、吉良は居心地悪いだろ」

「参考にさせてもらう。ありがとな主任───ひよ子はやれないけど」

「いいよ、俺は平日毎日9時間ずっと、吉良と同じ職場にいるんだから」

 ───……は? なんだと? 主任め、片思い拗らせて変な領域に入ってないか?

「キラくんっ! あ、主任も今日は早いですね」

「会社出たらイケメンがいたから、話しかけたんだよ。じゃぁな、また明日な」

 主任は遅れて来たひよ子の頭をワシャワシャして帰って行った。あいつめ……

「ひよ子、いつも今みたいに主任から頭ワシャワシャされてんのか?」

「んー、たまにだよ」

 ───……たまに?! 常習犯か、セクハラで訴えてやる!






 とはいえ、主任のアドバイスのおかげでアッサリひよ子の指輪のサイズを知ることが出来た。
 しかも、ちゃんとサイズのジャラジャラしたやつで調べたから、間違いないだろう。

 さすがに先日のショップにあった品とは全然輝きが違ったな……やはり高いものにはそれだけの理由があるらしい。


「ひよ子、今日行ってもいい?」

 食事を外で済ませ車に戻り、俺は一応ひよ子に聞いた。行く気満々ではあったが。

「あ……っ」

 ひよ子が微妙な顔をした。何だ……俺、なんかしただろうか……夜がしつこい? でも平日は加減して……

「せ、生理中なのっ……だから……」

 なんだ、そういう事か……

「ひよ子、俺は別にしたいから行きたいわけじゃないよ。ひよ子が嫌じゃなければ、お腹さすってあげながら一緒に寝たい」

 ひよ子は生理1日目、2日目に痛み止めを飲んでいる事を俺は知っている。3日目以降は貧血なのか元気がない事だって知っている。
 まぁ、健二から聞いたんだけどさ。あいつ、本当に凄い奴だよ。

「うん、ありがとう。私もキラくんと寝ると安心するから嬉しい……」

「ぅっ……かわっ……うん、今日は何日目? 今辛くない? 薬は?」

 ひよ子は、3日目だといい、薬はいらないと言った。
 俺はすかさず、ひよ子の前で生理日管理アプリをダウンロードし、ひよ子のフォローを開始する事にした。
 モードは……“妊娠希望モード”は、まだ気が早いな。“一般モード”でいいか。

「ひよ子、生理の終わりと始まりは、ちゃんと俺に知らせるんだぞ」

「……う、うん」

 あ、ひよ子がちょっと引いてる顔だ……
 

 
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