キラくんの愛は、とどまることを知らない



「ヒカリ……綺麗っ───ぅう……」

「本当だな」

 俺は振袖姿のひよ子の方が花嫁より綺麗だと思うけどな。涙で目元を潤ませるひよ子も可愛い。

 ───今日は朝から大騒ぎだった……

 ヒカリちゃんの結婚式で着る振袖を、実家の和室に広げて掛けておいた、と母から連絡があり、俺達は早朝から実家に向かった。
 なぜかすでに健二がおり、メイク道具を広げて鼻歌を歌っていた。

 着物の事など何もわからない俺達は、母親に全て任せた。帯やら襟やら紐やら……

 そして完成したひよ子は、まるでかぐや姫……いや、かぐや姫より完璧だった。

「ぅっ───……」

 あまりの可憐さに、俺が言葉を失っていると……

「これはこれは、主役の花嫁さんより素敵になってしまったんじゃないかな?」

「父さん……俺より先にコメントするなよ……」

「やっぱり、娘はいいわね……飾りがいがあって……ひよ子ちゃんは素材がいいから何でも似合うし、こだわりもないから、私の好みにできて、本当に本当に楽しいわ」

「母さん、それ口に出していいやつか?」

 ───と、こんな風にまわりがやたらうるさいが、ひよ子本人はどう思っているのか……静かなひよ子が気になった俺は彼女の顔を覗き込む。

「ひよ子? 大丈夫か? 苦しくないか?」

 ひよ子は唇を噛み締めて、何か複雑そうな表情をしていた。

「……私……わたしっ……嬉しくて……っこんなに素敵なお着物を着せてもらえる日が来るなんて……っ信じられなくてっ……」

 涙を我慢していたらしい。

「あー!! 駄目よっひよ子ちゃんっ泣いたらメイクがっ!」

 健二が叫ぶ。

 母もつられて涙し、父はそんな母の方を抱いている。もちろん俺はひよ子の身体をそっと抱いた。

「ひよ子、これからいっぱいあるぞ。振袖は結婚したら着れないから、うちの家紋が入った別の着物を仕立てるし、結婚式ではお姫様にしてやるからな……白ドレスに白無垢、カラードレスに色打掛に……」

「……そんなに着れないよ」

 どさくさに紛れて結婚式の話をしたが、普通にツッコまれた。が、結婚式自体を否定はしていないようだ。

「さ、最後の仕上げよ───これは、私とお父さんから、未来の娘への最初のプレゼント」

「まぁ素敵っ!」

「おいおい……そんな……」

 母がひよ子に付けたのは、小さな真珠のピアスだった。ケースの中には真珠のネックレスも入っているが、今日は必要ないだろう。

「えっ! こんなっこんな高価なものは頂けませんっ、キラくんのお母様っ! お父様もっ」

 真珠の登場には、ひよ子も焦っていた。
 俺にはその価値がよくわからないが、母親が選んだのなら、それなりに高価な品だろう。

「なんだか私は、ひよ子ちゃんは20年前からすでに家族の一員だった気がするよ。名前だけは、ずっと我が家で聞いていたからね……遠慮しなくていい。受け取ってくれ、母さんがいじけてしまう」

 と、父までそんな事を言い……

「その、“キラくんのお母様”というのも、寂しいわ。お義母さん(おかあさん)って呼んで欲しいな」

 ひよ子にお母さん(・・・・)は禁句なんだが……

「……っ」

 また、ひよ子が唇を噛んでいる。

「ひよ子ちゃんっ……泣いていいわよ。メイクは直してあげる」

 健二の言葉に、ひよ子は堰が切れたように泣き出した。
 自分の産みの親と重ねたのか、それとも単純に母と呼べる存在ができて嬉しかったのか……

 俺が用意していた、小さなひと粒ダイヤのピアスはまたの機会だな、と、そっとポケットに手を添えた。




 そんなわけで、朝から色々あったのだ。

「ひよ子、今からそんなうるうるしてて、スピーチ大丈夫か?」
 
「だ、大丈夫! 何度も泣きながら練習したから、慣れた! キラくんもピアノ大丈夫?」

「ん、俺は問題ないよ」

 ひよ子の友人スピーチの際、俺がバックミュージックとして二人の思い出の曲をピアノで演奏する事になっている。
 ストリートピアノを見つけた際に俺がひよ子の前で演奏した事をきっかけに、こんな事になってしまったのだ。

 子供の頃からピアノを習わせられていたが、ここにきて初めて役に立つ時がきた。ブランクはあったが、パソコンのキーボードと大差ないからか、すぐに身体が思い出した。


 挙式が終わり、ブーケトスの時間がやってきた。

「ほら……ひよ子、行ってこい。押しつぶされないようにな」

「うんっ───たぶん、取れないけど」

 そう言って控えめに一番後ろの方にいたひよ子だったが、ヒカリちゃんの大暴投により、キャッチしたのは───……


 俺だった。

「……」

 気まずっ……でも、地面に落ちるってのも微妙だよな?

 仕方ないな、と思いつつ、俺は少し先にいるひよ子の前に歩み出た。

「───どうぞ、次の花嫁は君かな」

「あ……はい……」

 ひよ子は頬を染め、恥ずかしそうにブーケを受け取る。
 直後、けたたましいほどの黄色い悲鳴が、その場にこだました……




 その後、無事に友人スピーチをやり遂げたひよ子と俺。新婦は嗚咽を漏らしながらの大号泣で大変だったが、会場には笑いが起きていた。


 そして最後、新郎新婦とご両親に見送られ、俺達は会場を出た。



「はぁ~、素敵な結婚式だったね……」

「ああ、そうだな……」

 ひよ子ばかり撮影していたせいで、スマホのバッテリーがヤバい。

「……ひよ子、寄りたい場所があるんだ、いいか?」

「うん? いいよ」



 俺は実家に向かっていた車の行き先を少し変えた。


「あ! ここっ! まだあったんだぁ! 懐かしぃ───」

 そこは、俺達が出会った公園。
 実家から近いため、今朝ひよ子が着付けをしている間に見に来てみたらあったのだ。

 今日しかない。
 両親はひよ子に気持ちを伝えたし、ひよ子の親友はブーケトスでバトンを渡してくれた。

 俺はポケットから指輪の箱を取り出して、手に握っておく。


「ひよ子」

「ん?」

 楽しそうな笑顔のまま、振り向いたひよ子の前で、俺は指輪のケースを開いて片膝をついた。

「吉良 ひよ子さん、俺と結婚してください」

「っ───」

 ひよ子の動きがピタリと止まった。


「ひよ子……俺、億万長者になったから、迎えに来たよ───俺のお嫁さんになってくれるよな?」

「……っ」

 また、泣かせてしまった。
 でも今日のひよ子の涙は全部ハッピーな涙だ。



「───うんっ! ひよ子(・・・)、キラくんのお嫁さんになるっ!」

 ひよ子は俺に飛び込むように抱きついてきた。
 咄嗟に立ち上がり、彼女の身体を受け止める。
 
「これが最後のプロポーズだからな、ひよ子はもう俺のモノだ───」
 
 ギュウっとひよ子の身体を抱きしめる。
 
 
 
 
 
 と、その時だった……
 
 
「あら、あらあらあらあらあら……! 映画のワンシーンかと思って、つい最後まで見ちゃったわ! ───大変っこうしちゃいられないっお義母さん達に報告しなくっちゃ!」


 コンビニの袋をぶら下げた健二が大声で叫びながら、実家の方へ走って行った。

「……なんか、デジャブ……」
「……だな……」

「ふふっ……健二さんってば」

 俺はキョロキョロと周囲を確認し、こっそりと唇を重ね合わせた。




「帰ろう、皆待ってる」

「うんっ」


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