私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
「……しばらく、ここにいていいよ」

野田はそう言って、ポケットからスマホを取り出して軽く見ながら続けた。

「会議室、長めに取ってあるから。……まあ、総務の人が探しに来ない程度に、さ」

気安くて、けれど優しい声だった。

私は思わず、顔を上げて野田を見た。

野田は、いつもの調子でからかってくるような表情じゃなかった。
無理に笑ってもいないし、冷たくもない。
ただ、ほんの少し眉尻を下げて、優しい目をしていた。

それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
今の私が泣いてることも、情けないことも、全部、ちゃんと分かっていてくれる――そんな気がした。

「……ありがとう」

絞るように言った言葉に、野田は「ん」とだけ返して、視線をスマホに戻す。

何も言わず、でも隣にいてくれることが、こんなにも救われるなんて思ってなかった。
それは、五十嵐先輩の前では決して感じなかった種類の、やさしさだった。
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