私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
少し時間がたって、
泣き止んだ私が、大きく息を吸って吐いた。

「……ねえ、野田」

「ん?」

「推し活だったら、続けてもいいよね?」

野田がスマホから顔を上げて、少しだけ首を傾げる。
“ん?”という感じで、目だけで「どういう意味だよ」と問いかけてくる。

「まだ気持ちの整理はできてないけど……
先輩のこと、やっぱりしばらくは“推し”でいようと思う」

少しだけ照れくさくて、でも自分に正直にそう言った。
“好きになったこと”も、“憧れた時間”も、全部なかったことにはしたくなかったから。

野田はふっと笑って、頷いた。

「……お前らしいじゃん」

その笑いは、いつもの“からかい”じゃなかった。
あったかくて、どこか安心させるような――ふんわりとした笑顔。

それがなんだか、やけに心にしみた。

「推し活、ほどほどにな。じゃないと、また泣くぞ」

「泣かないもん」

「ほーん? じゃあまた泣いてたら、次は焼肉奢りな」

「え、それ私が払うの!?」

「当然でしょ」

「ひどっ」

くすっと笑って、ちょっとだけ泣きそうになった。
でもそれはさっきと違って、あったかくて、前向きな気持ち。

気づけばもう、泣いていた顔のことなんて、どうでもよくなっていた。

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