甘い記憶を溶かしたら
「遠野さん、パッケージデザインの修正案データが古いバージョンのまま保存されてます」

 栗田くんに指摘されてパソコンを覗き込む。
 
「え! ごめんなさい!」
「たぶん、提出フォルダに入れたファイル名が前のままでそのまま上書きされてません。共有サーバーから入って提出用のフォルダに入れてからファイル名を同じにして上書きすれば、提出側の一覧は更新されるだけで通知は飛びません。開いたときには最新版が見られます」
「は、はい。すみません」
「いえ。とりあえず上書きはしましたので問題ないです」
「は、はい。ありがとうございます。次回から気をつけます」

 愛想なし栗田くんは見た目よりずっとシゴデキ君だった。とにかく周りの人みんなが仕事が出来る! そんな環境は地方支社でのらりくらりやってきた私にはかなりハードな環境で。人目を気にする私には超絶ストレスの毎日。

 ――はぁぁぁ、しんど。
 
 ひとり残されたミーティングルームで出来ていない仕事に向き合いながら盛大な溜息をこぼす。そして恋しくなって常備しているあれを取り出す。

「おいし……」

 口に入れたのは思い出の飴。
 ビー玉檸檬は私にとっても思い入れのある大切な飴なのだ。コロンと大きなビー玉みたいな飴は口の中でゴロゴロと転がり口に含むと食べていることを隠せないほど。ソーダ味の痺れる感覚とレモンの酸味……それでも甘酸っぱさが喉を癒す。それは青春の味、そんな気がする。

 ――青春と初恋の味……。

 それを舐めながら落ち込む気持ちを抱えつつ仕事を再開するぞ! と、気合いを入れたとき扉が開いた。
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