甘い記憶を溶かしたら
 青いツバメが飛行機雲のように白い線をなぞりサブコピーである「溶けるひととき」という文字を運んでいく。迷っていたことがひとつの線でつながるように胸が高揚した。

「視線って……流れなのか。今までどこに置くかばかりを考えて動かすっていう考えなんかなかった。目に留まるばっかり思ってたかも」
「目に留まるは大事だけどな。目に入ってなんぼだし、そのためにどこに置くかを考えるのは基本。そこからそういうものを考えられたらより人の目に触れやすくなる」
「勉強になります」
「デザインがいいんだしあとはちょっと視点変えるだけでもっと伝わる。せっかく感性のいいパッケージなんだ、目に留まるだけじゃない惹きつけられるものにしたいな」

 褒められると単純に照れる。そして褒め方と背中の押し方がうますぎやしないか。昴先輩は何気なく言ってくれている風だけれど私の心には沁みるように言葉が落ちて胸の中に広がっていく。

「……ありがとうございます。ちょっとやってみます」
「うん。あとで、反映版見せて」

 静かな部屋の中でパソコンを叩く音や紙擦れの音と事務的で機械的な音しかしないのにどうしてかな。その音が心地よく響く。悩んで頭を抱えていた時間が嘘みたい。同じ悩みがあったってどこか楽になれた気持ち、そしてやってみたいと胸熱くなる思いが芽生える。こんな気持ちを抱えて仕事をしているのは初めてかもしれない。

「そろそろ帰ろうか。もういい時間」
「……え? あ、本当だ」

 昴先輩の声にハッと顔を上げて時計を見上げたらもう二十一時前だ。集中して時間を全く見ていなかった。

「こん詰めすぎるの良くないよ。また寝かせればアイデアも浮かぶし閃きも落ちる、明日には違うものが見えたりする。締切までまだあるから焦らなくていい」
「はい……あの」
「ん?」

 ん? と微笑んでくれる表情とその声が優しい。

 ――どうしよう。
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