甘い記憶を溶かしたら
 恐々見上げるとゆっくりと昴先輩の整った顔が視界に埋まる。見つめられてまた息を飲んだ。

「遠野さんこそ、覚えてないと思ってた」
「え?」
「俺のことなんて」
「忘れませんよ……そんな、忘れたこと……ない」
「……あの飴も大事に舐めてるとか、ちょっと可愛すぎない?」
「わた、私もその……好きだから」

 飴が……ううん、昴先輩がくれた飴だから……そうじゃなくて。

「檸檬ドロップスって食べた?」

 ――え?

「一度支社で配布された試作品を食、べ……ました」

 そう答えたら昴先輩がスーツのポケットからひとつ飴を取り出した。

「今日ちょうど貰ったんだ、檸檬ドロップスの完成品。社内OKが出て新製品として売り出される飴が完成した」
「え、すごい」
「あとは俺たちの作るパッケージだ」
「……そうなんですね。すごい、楽しみです」

 目の前でプレゼントを開けられるようなワクワク胸が躍るような気持ち、そんな思いで仕事をするのは初めて。そしてそうさせてくれるのはきっと昴先輩がいるから。昴先輩と仕事が出来ているから。

「遠野さんがチームに来るってわかって嬉しかった。会いたかったから」
「え?」
「莉久の彼女だからって、弟の彼女にダメだろってわかってても……無視できない気持ちがあった。俺、可愛いなって思ったらその子のことばっかり考えて気づくと自分でも信じられないくらい好きに……」

 ――え? 

「だからずっと遠野さんって俺の中で可愛い女の子のベースになってるっていうか……」
「は?」
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