甘い記憶を溶かしたら
 今、昴先輩は何を言った? なんかとてつもなく勘違いしそうな言葉が聞こえた気がする。でもそれを聞き返す勇気はなくて喉元で飲み込んでしまった。
 
「プロジェクトチームに入る前は商品開発で俺も試作に参加してたんだ。ビー玉檸檬を忘れさせずに大人になっても楽しめる味、大人になったから感じる甘さと苦さ……食べてみてくれる?」

 そう言って透明の袋から取り出されたのは飴色の檸檬ドロップス。ビー玉檸檬を昇華させた、大人のための檸檬飴。ビー玉檸檬とは対比するかのようなコロンと小さめの丸みを帯びた透き通る飴色に、紅茶とレモンを掛け合わせた柔らかくも茶葉の立つ香ばしい香り。
 昴先輩の長く綺麗な指先がその水晶玉みたいに綺麗な飴をつまんで私の口に運んでくる。それはまるで魔法のように、抵抗することもなく素直にその飴を迎え入れるみたいに薄く口を開ける私に昴先輩は微笑んだ。

「隠し味、わかるかな」

 甘さの奥にふと訪れるほろ苦さ。口に入れてなおわかるのはベルガモットの香り、甘さと苦さそこに深みのある香りが余韻を放つ。新商品のサブコピーは「溶けるようなひととき」この大人っぽい甘さが時間を記憶を溶かしていく。

「……隠し味は?」

 口の中で隠し味を探るように舐める私を見つめている昴先輩の瞳は楽しそうだけど、どこか熱を孕んでいるかのようにも見える。でも見つめる私が熱を帯びているのかもしれない。だって体の奥から発熱するように昂る気持ちがあるから。

「隠し味は……黒蜜」
「あ、バレた」

 でもそれだって楽しそうに笑うから。そんな昴先輩の嬉しそうな顔を見たら込み上がるものがあった。
 
「好き……好きです」
「……気に入ってもらえてよかった」

 違う、飴じゃない。
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