シンユウノススメ
毎日毎日、心臓を業火で焼かれているみたいに熱くて熱くて、視界はいつも真っ赤だった。

眼球から血が出ているのかもしれない。

違う。

じゃあ何?
頭がおかしくなったの?

おかしくなっていたのは心だった。
諦めたり期待したり願ったり踏みにじられたりしながらゆるやかに、ムギは壊れていっていた。

あと一歩。

あと一歩踏み出せばこの屋上から真っ逆様に落ちて、ムギはラクになれるのに。

学校にもおうちにもどこにも、ムギのことを愛している人なんてこの世にたったの一人も居なければ今すぐ飛ぶことができるのに。
どうしてもパパの顔がよぎって、「今日こそは」って決心したはずの心を臆病にさせた。

「何してるの?」

転倒防止のフェンスを乗り越えて眼下に広がる校庭をぼんやりと眺めている時だった。
その日はマスタード色の生地にダークグリーンの太いチェックが入っているスカートを履いていた。

七月の放課後はまだ高い位置に太陽があって蒸し暑く、だけど屋上に吹いている風は強かった。
ムギ以外には誰も居ないから、スカートが風でめくれて下着が見えちゃってたかもしれないけれど、どうでも良かった。
< 8 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop