もう一度、君と恋をするために
「浅香との映画は、それとなく断ったから。」

その言葉に、私は小さく息をのんだ。

断った――私の、たった一言で。

「ごめん。新しい恋の邪魔して。」

うつむいたまま言った私の言葉に、しばらく沈黙が落ちた。

ふと視線を感じて顔を上げると、悠一がまっすぐこちらを見ていた。

「真白は……もう新しい恋、始めたいの?」

その問いかけに、胸がぎゅっと締まる。

始められるわけがない。

あなたが、こんなにもまだ心に残ってるのに。

たったひとことで一喜一憂して、あなたの優しさに揺れて、苦しくなって。

それなのに、もう恋人じゃないことが、何より残酷で。

「……まだ。でも、一歩踏み出さないとダメだね。」

そう言って、お弁当をそっとしまう。

何も食べていなかった。

でも、これ以上ここにいたら、きっと泣いてしまいそうだった。

立ち上がろうとしたその時、背中にふっと声が届いた。

「ちゃんと食べろよ。」

優しくて、懐かしい声。

振り返ることはできなかった。

もし見たら、また戻りたくなってしまいそうで。

でもその声だけで、心が少しだけ、温かくなった気がした。
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