もう一度、君と恋をするために
蕎麦屋を出て、並んでオフィスへ戻る道すがら。

商店街の並木に吹く風が、少しだけ涼しくなっていた。

そのとき、不意に三浦さんが口を開いた。

「桐谷さんって、今彼氏いるの?」

少し驚いたけれど、正直に答えた。

「今は……いません。」

「そっか。」

それ以上は何も言わず、少しだけ沈黙が落ちた。

けれど、オフィスに戻ったあと──

彼はふっと笑いながら、もう一度私の方を見た。

「よければ、俺を彼氏候補にしてよ。」

「えっ……?」

思わず声が漏れた。

三浦さんは、いつもの柔らかな笑みを浮かべていた。

ふざけているようで、けれど冗談には聞こえなかった。

不思議と、その言葉は胸に残った。

ああ、この人は――私の“今”をちゃんと見て、“これから”に手を差し伸べてくれようとしている。

新しい恋。

そう言っても、きっと過言じゃない。

私の心に、ほんの少し、風が吹いた気がした。
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