もう一度、君と恋をするために
飲み会の帰り道。

私と悠一は、揃いも揃って終電を逃してしまった。

「……タクシー、拾おうか。」

悠一は髪を掻き上げながら、少しバツが悪そうに言った。

「うん。」

駅前のタクシー乗り場まで歩いて、二人並んで列に並ぶ。

夜風は思ったより冷たくて、身体の熱がどんどん引いていく。

そんな時だった。

「うわっ、降ってきた。」

ポツ、ポツ、と小さな雨粒が頬に落ちてくる。

傘なんて持っていない。周囲もざわめきはじめる。

すると悠一が、何のためらいもなく自分の上着を脱ぎ、私の頭にふわりとかぶせた。

「ちょっ……いいよ、そんなの!」

「風邪ひくよりましだろ。」

その声が、やけに優しくて、低くて。

昔、何度も助けられた“あの声”だった。

上着の中は、彼の体温と香りがふわっと立ち上がる。

こんなふうに、優しさをくれるのは反則だよ。
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