もう一度、君と恋をするために
心の中でそう呟いたけれど、私はもう、その上着を払いのけることができなかった。

「あっ、あそこにバーがある。行こう。」

悠一の指差す先に、小さな灯りのともるバーがあった。

私たちは雨の中を駆けて、その店へ飛び込んだ。

中は静かで、ほんのり暖かく、まるで時間が止まったようだった。

「びしょ濡れ……ごめん、私が一緒にいたから。」

私が言うと、悠一は濡れた髪を軽く手で撫でながら、そっと笑った。

「……なんか、付き合ってた頃のこと思い出した。」

その笑顔があまりにも懐かしくて、心臓が跳ねた。

静かに漂う、彼の香り。

濡れたジャケットからわずかに立ち上がる、あの頃のぬくもり。

私だって、忘れてなんかいない。

悠一のことを、心から愛していた時のことを。

カウンター席に並んで座りながら、グラスの中で氷が音を立てるたびに、過去の記憶が波のように押し寄せてくる。
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