もう一度、君と恋をするために
私をタクシーに乗せると、悠一はドアを支えたまま言った。

「……また、二人で会おう。」

その言葉の直後、カチンと音を立ててドアが閉まり、車体がゆっくりと動き出す。

雨上がりの道。

水たまりをタイヤが跳ね、しぶきが光を反射する。

窓の向こう、立ち尽くす悠一の姿が、街灯に照らされてキラキラと揺れて見えた。

「……悠一。」

もし、あの夜に戻れるのなら――
もし、あのとき別れを選ばなかったのなら――

そう考えかけて、首を振った。

ううん。過去は過去。
いくら願ったって、やり直せるわけじゃない。

でも、今なら。

今、この瞬間の私は、悠一を“もう一度、欲しい”と思っている。

戻りたいんじゃない。

やり直したいんじゃない。

今ここから、もう一度、彼を選びたい。

そう思えた瞬間、胸の奥がじんわりとあたたかくなった。

タクシーの中、静かに目を閉じる。

頬をなぞる余熱のようなぬくもりに包まれて、私は確かに、恋を始めようとしていた。

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