もう一度、君と恋をするために
何事もなかったように見えて、その一瞬で、心の奥に波紋が広がっていく。

今さら、どうしようもない感情。

でも確かに、まだ“何か”が、残っている気がしていた。

デスクに戻ると、悠一は静かに私のメモに目を通していた。

そして、それを一枚のファイルに収めていく。

その中には、過去のプロジェクトで使った資料や、私がかつて書いた手書きのメモも混ざっていた。

少しだけ、端が折れ曲がったノートの切れ端。

そこには、黄色のマーカーが何本も引かれている。

「……いつも、ですか?」

気づかれないように、そっと問いかける。

「うん。大事なところね。」

悠一はそう言って、今日渡したばかりのメモにも、同じように黄色のマーカーを引いた。

真っ直ぐで、無駄のないライン。

私が書いた小さな言葉が、その線の中にすっと収まっていく。

その何気ない仕草に、胸がきゅっと鳴った。

──この人は、今も私の言葉をちゃんと受け止めてくれるんだ。

たとえそれが“恋人”としてじゃなくても、
“同僚”としてでも、
“仕事の相棒”としてでも。

それでも、私の想いはどこかでちゃんと届いていたのかもしれない。
< 6 / 40 >

この作品をシェア

pagetop