夢の続きを、あなたと
 それからおよそ一か月が経過して、ようやく連絡があり、今日のアポが取れたのだった。

 ただし、こもれびの代表はどうしても外せない用事があるとのことで、代わりの人が話を聞いてくれるとのことだったけれど、その人もかなりの腕前の職人とのことで、私は朝からとても緊張していた。

 家具の廃材を使った雑貨を思いついたのは、世界にひとつしかないオンリーワン、そこに着目したからだ。
 学生時代、私は職人になりたくて、専門学校で木工や革製品などのハンドクラフトを学べる科を専攻していた。
 
 本当は、専門学校を卒業後、工房やアトリエに就職したかった。
 けれど……
 職人の世界は甘くない。
 社会人一年目の職人の給料で生計を立てることは非常に厳しい。
 今でこそ労働基準法に護られて勤務時間や条件なども改善されてきただろうけど、それでもやはり薄給であることに変わりはない。
 私は職人の道を諦め、安定を選び、企業就職の道を進んだ。

 雄馬と私は、同じ専門学校に通う同級生で、元恋人だ。
 
 お互いが嫌いになったわけではない。
 夢を追い求める雄馬と、安定を求めた私。
 価値観のすれ違いが原因だった。

 関係を解消してから、お互い自分の進む道に向かって別々の道を歩んでいた。
 雄馬の就職先がここだということを、私は今日まで知らなかったのだ。

 不意打ちの再会に私は動揺している。

「雨脚も強いですから、よかったら中で雨宿りでもされませんか? って……、み、つき……?」
 
 雄馬の声に、私は我に返った。
 だれかが軒先で雨宿りをしていると思ったのだろう。
 昔から変わらない優しさに、懐かしさが込み上げてくる。
 雄馬のことだ、雨宿りをしている人がだれであっても、きっとこんなふうに声を掛けるに違いない。
 私はゆっくりと息を吐いて、口を開いた。

「あ……、失礼いたしました。私、アルファクラフトの梶田と申します。本日はお時間をいただきありがとうございます」

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