あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと
「ここの席空いてますよぉ」

 宮本が凌平に指さしたのは、菜月の隣の席だ。

「ちょ、ちょっと……宮本さんっ」

 菜月はどうしていいかわからず、おろおろと戸惑ってしまう。

 でも凌平は表情一つ変えず、宮本に「ありがとう」とほほ笑むと、静かに菜月の隣に腰かけた。

「同級生なんですもんねぇ。積もる話もあるでしょうから」

 宮本は菜月にウインクをすると、さっさと別のテーブルへと移って行く。

 凌平と顔を見合わせた菜月は、やや気恥しさを感じながら下を向いた。


 それからしばらく、菜月と凌平は会話をすることなく、静かにグラスを口元に運ぶ。

 凌平と隣どおしでお酒を飲むなど、少し前の菜月からしたら、考えられないことだ。

(どうしよう……緊張してきちゃう)

 しばらくして、沈黙に耐えられなくなった菜月が「あの」と声を出した時、凌平も同じように口を開き、二人の声は重なった。

 菜月は思わず凌平の顔を見上げると、ぷっと吹き出して笑い出してしまう。


「なんだか不思議だね。凌平とこうして、一緒のお酒の席にいるなんて」

 くすくすと笑う菜月を見ながら、凌平は「そうだな」と優しくほほ笑んだ。

「綾瀬は卒業以来、行方もわからなかったのにな……」

 独り言のようにつぶやく凌平の言葉に、菜月は小さく目を開く。
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