あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと
 それでも菜月を見つめる凌平の瞳があまりに澄んでいて、菜月は耐え切れず凌平から目線を逸らした。

「な、なにを言って……。そ、そりゃあ、私は恋人もいない悲しいアラサーだけどさ。そんな、たまたま再会した同級生に同情されても……」

 菜月が心にもないことを口走った瞬間、凌平がさらに顔を寄せる。


「菜月」

 凌平に呼ばれた名前に、菜月の心臓がドクンと動く。

「同情だなんて、本気でそんなこと言ってるのか?」

 まるで怒ったように響く凌平の低く重い声に、顔を上げた菜月ははっと息をのんだ。

 凌平は菜月の口先の嘘なんて、もうとっくに見抜いている。

(いつだって私は、凌平には敵わないんだ……)

 その瞬間、菜月の中で、あの頃の想いが一気に湧き上がってきた。


 あの頃、凌平を好きなのだと自覚した菜月は、無理やりその気持ちを忘れようとした。

 そうしないと、大切にしてきた友人を失ってしまうと思い込んでいた。

 でも、忘れようとすればするほどその想いは膨れ上がり、ついには大きな棘となって菜月の心に残り続けたのだ。
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