あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと
「え……? まさか……」

 薄く形のいい唇から低い声が漏れる。

 心を射ぬくような懐かしい声に、菜月の心臓はドクンと波打った。


 菜月は目の前で、驚いたようにこちらを見つめる顔を確かに知っている。

 印象的な切れ長の目に、スッと通った鼻筋。

 艶のある黒髪は、以前は少し短めだったが、今は長めで大人の男性らしくサイドに流している。


(あぁ、やっぱり凌平だった……)

 菜月の瞳をうっすらと涙がにじむ。

 佐々波凌平は菜月の同級生であり、菜月が高校時代に一番長く一緒にいた人だ。


「もしかして……綾瀬か?」

 凌平はあの頃よりも、少しがっちりとした身体で立ち上がると、そっと菜月の前へと足を出す。

「ひ、久しぶり……」

 気の利いた事も言えず、やや上ずった声を無理やり押し出した。

 凌平もすぐに菜月だと気がついてくれたことに、菜月の心は一気に色づき出す。


「え? お二人ってお知り合いだったんですか?」

 すると隣で笠井が驚いたような声を出した。
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