陽だまりのエール
懐かしい画像を眺めながら感傷に浸っているうちに、私は居眠りしていたようだ。
「……ぎ。紬」
「……っ!?」
呼びかけと共に肩を揺さぶられ、ハッと我に返る。
勢いよく振り仰ぐと、すぐ傍らに怪訝そうな表情の陽希が立っていた。
「真夏でも、エアコンで冷えた部屋で薄着で寝てたら風邪引くぞ」
「やだ、いつの間に……」
壁時計の針は、私の記憶より一時間進んでいた。
「えっと……お帰りなさい」
なんとなくきまり悪くて、ぎこちなく笑いながら彼を見上げる。
「あまり根詰めるなよ、って注意したのに寝落ちとか……ったく」
陽希は呆れたような溜め息をついて、首の裏に手を遣った。
「あー……うん。でも、週明けのミーティングに必要で」
私が目を泳がせながら言い訳すると、彼もつられた様子で、テーブルの上の資料に目を走らせる。
「なにこれ。英語の資料ばかり」
「プロジェクトのために集めた資料。大使館とか資料館とかでもらったんだけどね……」
最後、苦笑いになったことで、私が英語の資料に苦戦していたことは陽希にも伝わったようだ。
「なるほど。今週俺、帰り遅かったからな……助けてやれなくて、ごめん」
「え。な、なんで陽希が謝るの?」
謝られたことに驚き、私はひっくり返った声で訊ねた。
けれど。
「……私が今まで、陽希を頼りすぎてたからよね。ごめんなさい」
ボソボソと言って、肩を竦める。
私の謝罪に、陽希は少し面食らったようだ。
「……そんなことないよ」
そう言って、柔らかく目尻を下げる。
「俺が知ってる限り、紬が最初から俺を頼ったことはなかったよ。いつだって始めは一人で考えて、どうしようもなくなって俺に助けを求めてくれる。だから嬉しかったし、力になりたかった」
男らしい端整な顔をくしゃっとさせて笑うと、二つ年上の陽希がちょっぴり幼く見える。
見慣れた笑顔なのに、私の胸はきゅっと締めつけられた。
知らない疼きに戸惑い、胸元に置いた手を握りしめる。
「俺でよければ、いつでも声かけて」
「陽希……」
「で……そろそろ気分転換が必要じゃない?」
陽希は突如、悪戯っぽく目を細めたかと思うと、私の顔の前になにかを翳した。
マジックのような鮮やかな手つきに、私は一瞬、瞬きをしてからーー。
「あ! それ、先週発売のゲームソフト!?」
彼から受け取った物を両手で持ち、声を弾ませた。
「そ」
私の反応に、陽希も満足げに目を細める。
「二人で協力プレイ、やるだろ?」
「うん!」
私は元気よく答えると、サッと椅子から立ち上がった。
ゲームは、私と陽希の共通の趣味だ。
まだ仲間と五人でルームシェアをしていた頃から、新しいソフトが発売されるたびに、二人で没頭した。
他の三人が呆れるほど、他のことはそっちのけ。
当番制だったゴミ出しやお風呂掃除を忘れたりして、二人揃って怒られたりしたものだ。
社会人になってからは少々控えているけど、今日陽希が買ってきたのは、私たちが一番好きなアクションアドベンチャーゲームのシリーズ最新作。
「俺、サッとシャワー浴びてくるから。準備しといて」
早速パッケージを開ける私に、陽希がやや苦笑気味に告げてくる。
「うん。ビール飲みながらやろ! 準備するから」
一転、ウキウキした気分で、私は彼を送り出した。
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