陽だまりのエール
プロジェクトのミーティングは、月曜日の午後から行われた。
私が担当したアジアの市場調査は、今後の物価情勢予測の調査を追加課題として挙げられたものの、とりあえずはまずまずの評価を得ることができた。
「仙崎さん、よくあれだけ調べたねー。相当頑張ったんじゃない?」
ミーティングが終わって執務室に戻る途中、同じプロジェクトに選出された他部署の同期、長谷沼さんが労ってくれた。
「うん。私、こういう大きなプロジェクト初めてなの。気合い入れてる」
褒められるのは満更ではない。
私も気分よく、二の腕に力こぶを作ってみせた。
「マーケティングって地味だけど、プロジェクトの大事な根幹部分よね。ここがぶれると、プロジェクトそのものが的外れな方向に動くことになる」
「それ、怖い! 新たに出された課題も、しっかり調査しないと……」
改めて気を引き締める私の横で、長谷沼さんがなにか思い出したようにポンと手を打つ。
「あ、そうだ。来週、私、連続休暇をもらってて。プロジェクトのリーダーには共有してるけど、仙崎さんの次の報告資料、メールで送ってくれないかな」
「あ、そうなの……うん、了解!」
私は返事をしながら、片手でスマホを操作した。
リマインダーに登録して、上着のポケットにスマホを戻す。
「夏休み、いいなあ。どこか行くの?」
「うん。国内で二泊三日。海外は高いしね……」
「円安傾向続いてるし、特に夏休み期間だと、海外旅行はかなりハイコストか」
長谷沼さんの返事に、私は大きく頷いて納得した。
「旦那、決まったお盆休みしか取れないからさ。私が合わせないとねー」
そう言う彼女の横顔を、なんとなく眺める。
「長谷沼さんの旦那さんって、大学の同級生だったっけ?」
「ん? そうだけど」
「大学時代からの彼氏とか……?」
部署も違う、それほど親しくしてるわけでもない同期に、ちょっと踏み込みすぎかも?と、遠慮がちに訊ねてみる。
けれど長谷沼さんは、「そうそう」と軽い調子で答えてくれた。
「じゃあ、結婚は必然的だった感じ?」
「必然的って」
私がやや前のめりに質問を重ねると、彼女もやや苦笑した。
「自然と、流れで、年頃だから……って感じで、成り行きで決めたのかって聞きたいの?」
「い、いや、そんな!」
ズバリ聞き返されてみると、とても失礼な聞き方だった気がして、私は焦って一歩飛び退いた。
「そうじゃなくて……旦那さんって、そばにいるのが当たり前の存在だったんだろうなって」
最適な言い回しを探して、たどたどしく質問し直す。
「そういう人との結婚なら、不安はないし迷いもないでしょ? でも逆にきっかけが必要? そんな気がして……」
「あー、なるほど」
それでも長谷沼さんは意図を汲んでくれたようで、目線を上げ、納得顔で呟いた。
「私、二十八で結婚したけど、きっかけらしいきっかけはないかな。お互い、この人以外との結婚はなさそうって思ったタイミングが重なった、そんな感じ」
「この人以外とは……」
長谷沼さんの答えを自分の口で言ってみて、私はごくりと唾を飲む。
私が担当したアジアの市場調査は、今後の物価情勢予測の調査を追加課題として挙げられたものの、とりあえずはまずまずの評価を得ることができた。
「仙崎さん、よくあれだけ調べたねー。相当頑張ったんじゃない?」
ミーティングが終わって執務室に戻る途中、同じプロジェクトに選出された他部署の同期、長谷沼さんが労ってくれた。
「うん。私、こういう大きなプロジェクト初めてなの。気合い入れてる」
褒められるのは満更ではない。
私も気分よく、二の腕に力こぶを作ってみせた。
「マーケティングって地味だけど、プロジェクトの大事な根幹部分よね。ここがぶれると、プロジェクトそのものが的外れな方向に動くことになる」
「それ、怖い! 新たに出された課題も、しっかり調査しないと……」
改めて気を引き締める私の横で、長谷沼さんがなにか思い出したようにポンと手を打つ。
「あ、そうだ。来週、私、連続休暇をもらってて。プロジェクトのリーダーには共有してるけど、仙崎さんの次の報告資料、メールで送ってくれないかな」
「あ、そうなの……うん、了解!」
私は返事をしながら、片手でスマホを操作した。
リマインダーに登録して、上着のポケットにスマホを戻す。
「夏休み、いいなあ。どこか行くの?」
「うん。国内で二泊三日。海外は高いしね……」
「円安傾向続いてるし、特に夏休み期間だと、海外旅行はかなりハイコストか」
長谷沼さんの返事に、私は大きく頷いて納得した。
「旦那、決まったお盆休みしか取れないからさ。私が合わせないとねー」
そう言う彼女の横顔を、なんとなく眺める。
「長谷沼さんの旦那さんって、大学の同級生だったっけ?」
「ん? そうだけど」
「大学時代からの彼氏とか……?」
部署も違う、それほど親しくしてるわけでもない同期に、ちょっと踏み込みすぎかも?と、遠慮がちに訊ねてみる。
けれど長谷沼さんは、「そうそう」と軽い調子で答えてくれた。
「じゃあ、結婚は必然的だった感じ?」
「必然的って」
私がやや前のめりに質問を重ねると、彼女もやや苦笑した。
「自然と、流れで、年頃だから……って感じで、成り行きで決めたのかって聞きたいの?」
「い、いや、そんな!」
ズバリ聞き返されてみると、とても失礼な聞き方だった気がして、私は焦って一歩飛び退いた。
「そうじゃなくて……旦那さんって、そばにいるのが当たり前の存在だったんだろうなって」
最適な言い回しを探して、たどたどしく質問し直す。
「そういう人との結婚なら、不安はないし迷いもないでしょ? でも逆にきっかけが必要? そんな気がして……」
「あー、なるほど」
それでも長谷沼さんは意図を汲んでくれたようで、目線を上げ、納得顔で呟いた。
「私、二十八で結婚したけど、きっかけらしいきっかけはないかな。お互い、この人以外との結婚はなさそうって思ったタイミングが重なった、そんな感じ」
「この人以外とは……」
長谷沼さんの答えを自分の口で言ってみて、私はごくりと唾を飲む。