御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
「政略結婚だった。でも、俺は彼女が好きでたまらなかったんだ。……ただ、彼女は──他の人を、愛していた。」

言葉の端が震えていた。

律さんは、腕を額に乗せて、その顔を隠した。

「ずっと……片想いだったよ。それでも諦めきれなくて、プロポーズした。俺の人生全部を懸けて……でも、断られたんだ。『律の愛には応えられない』って。」

静かに、律さんの頬を伝って涙が流れ落ちた。

その痛みが、私の胸にもひどく刺さった。

私はそっと、律さんの胸に顔を埋め、腕をまわして抱きしめた。

「……律さんだけじゃない。私も、そうだった。一方通行の想いに、何度も心を削られて……それでも誰かを好きになることを、やめられなかった。」

私の声も震えていた。

けれど、不思議と苦しくはなかった。

「似た者同士ね、私たち。」

律さんが、優しく笑った気がした。

抱き合ったまま、二人は静かに目を閉じた。

誰にも邪魔されない、心の奥の傷を見せ合った夜。

それは、過去の恋をやっと手放して、“今の愛”に目を向けるための、大切な夜だった。
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