御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
「本当に、いいのか?」

彼の声は震えていた。

「だって、律さんがそのままじゃ、苦しそうだから」

笑ってみせたけれど、本当は胸がチクチク痛んでいた。

でも信じたかった――律さんの選ぶ“いま”が、私であることを。

そして翌日。

律さんは玄関で革靴を履きながら、少しだけ私の方を振り返って言った。

「涼花に会ってくる。……もう、対応できないって、ちゃんと伝えてくるよ。」

その背中は、どこか覚悟をにじませていた。

言葉を選んでいるようで、でもまっすぐで――律さんらしかった。

「うん。分かった。」

私はただ、静かに頷いた。

すると彼は、玄関ドアの取っ手に手をかけたまま、ふいにくるりと向き直ると、

片手で私を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫。昨日……千尋のこと、いっぱい充電したから。」

くすっと笑いながらも、その目は真剣だった。
< 116 / 252 >

この作品をシェア

pagetop