御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
私は定時の18時になると、急いで会社を出た。

ヒールの音を鳴らしながら向かった先は、律さんの会社のロビー。

(間に合った……)

鼓動は、走ったせいだけじゃない。

私は隣接するカフェのガラス越しに、そっと中を覗いた。

──いた。

一番奥のテーブル。

奥の席には、涼花さん。

そして、手前に律さん。

彼女の顔は見えないけれど、律さんの横顔はよく見えた。

笑ってはいない。けれど、真剣な眼差し。

私はそっと陰に身を隠した。見つかったら、怒られるかもしれない。

でも──見たかった。

私はそっとカフェに入ると、空いていた植木の後ろの席に滑り込んだ。

ふたりの斜め後ろ──会話がかすかに聞き取れる絶妙なポジション。

バッグを置いて、メニューを開くふりをしながら耳を澄ませた。

「それで?今更何の用?」

律さんの低くて冷ややかな声が聞こえた。

思わず息を殺す。
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